留年!
「ごめん、卒業できなかった!」
帰ってくるなり、私とフランを執務室に連れて来た兄様は、開口一番頭を下げて謝った。
「え……どういうこと?」
私はその言葉が信じられない。
兄様は、身内のひいき目ぬきにしても優秀な人だ。真面目に学園に通っていて、卒業できないなんてことあるはずない。
「今年は普通に授業を受けてたんじゃないの?」
「ああ。3年の科目は全てA評価以上で単位を取得している」
「……何があった?」
フランに問われて、兄様は大きなため息をつく。
「卒業試験が受けられなかったんですよ」
「ええ……?」
私は首をかしげた。
卒業試験とは、学園の生徒がカリキュラムを修めたことを認めるための試験だ。他の成績がどれだけよくても、この試験におちたら卒業できない。実際、ゲームの中でも試験をすっぽかしたら卒業できなくなって、誰にも聖女と認められずに見捨てられるエンドを見たことがある。
でも、そんなことになる生徒は例外中の例外だ。
学園のほうだって、真面目に勉強してきた生徒を見捨てるような真似はしない。
簡単なおさらい問題を出して、卒業資格を認めて終わりのはずである。
そして兄様は、とても優秀な人である。
受けられなかった、とはどういうことか。
「リリィは、王宮の派閥争いを知っているか?」
「わかんない」
私はこてんと首を傾けた。
領地をまとめるので手一杯だった私は、2年以上ハルバードの外に出ていない。
完全な領地引きこもり令嬢だ。
ゲームのおかげである程度王宮事情は知ってるけど、宰相閣下が死ななかったり、父様が第一師団長になったりした今、王宮勢力図は記憶と大きくかけ離れているはずだ。
「現在、王宮は宰相派と王妃派のふたつで争っている。宰相閣下の推薦をうけて、当主が第一師団長に就任したハルバード家は宰相派の筆頭扱いだ」
「まあそうなるよね」
宰相閣下の息子を長期レンタルしておいて、派閥に入ってない、とは言えない。
賄賂と不正が大好きな王妃派より、真っ当な政治を目指している宰相閣下のほうが信用できるからいいんだけどさ。
「でもそれって、学園に関係ある?」
「大ありだ。学園にはどちらの派閥からも子供が入学してくる。あそこは王宮の縮図のようなものなんだ」
「へー」
私の知る王立学園は、宰相閣下亡きあと王妃派が完全に支配していた。だから、派閥がどーの、という事件は起きてない。
私は新鮮な気持ちで兄様の言葉を受け止めた。
これも私の変えた運命の影響なんだろう。
「もちろん、この派閥は生徒だけの話じゃない。教職員にも王妃派、宰相派の両方がいる」
「え、もしかして卒業試験が受けられなかったのって、教師のせいだったの?」
「学園長が王妃派なんだ」
あちゃー。
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