建国神話

「……ふむ、そうか」


 深夜、フランに問い詰められた私は、全ての事情を彼に打ち明けた。

 最初の約束通り、私が何を話しても否定することなく聞いていたフランは、ゆっくりと頷く。


「つまり、話を要約すると……お前は世界を救うために運命の女神が異世界から遣わした神子、ということか?」

「すっごく簡単にまとめるとそうなるわね」


 なんか、そこだけ聞くと自分が大層な存在っぽく聞こえるけど。

 ただし『悪役令嬢』という単語自体はさらりと流された。理解不能な概念だったみたいだ。


「お前の言動が年の割に大人びているのは、異界で18歳まで生きた記憶があるから。異常に世界情勢や家の事情に精通しているのは、聖女の視点で未来を垣間見たからであり、予言が記された書物を持っているから。……で、あってるか?」

「だいたいそれでいいと思う」


 というか、私の要領を得ない説明でここまで把握できるってすごいな。

 さすが王立学園主席卒業生。理解力がハンパない。


「異界の魂を受け入れたというのなら、いきなり人格が変わったことに説明はつくが……。今のお前はひとつの体にふたつの魂が入っている状態だろう。元々のリリアーナとしての意識はどうなってるんだ?」

「うーん、どっちも私、って感じ? リリィとして考えてる時もあるし、小夜子として考える時もあるけど、どれも自分の中の一面って印象だなー。ほら、人間の意識って多面体だし」

「……はあ」

「リリアーナ自身が積極的に今の状況を受け入れてる、ってとこも大きいかな? そのままワガママ放題に育てられてたら、王妃様に利用されたあげくに、王子様との婚約も破棄されて家ごと滅亡するだけだったから」


 素敵な淑女になって、幸せに生きたいっていう、最終目標は一緒だからね。


「ふむ、お前が納得しているのなら、それでいいのか」


 そう言ってフランはまた少し沈黙する。

 眉間に皺が寄ってるから、まだ何かひっかかるところがあるっぽい。


「その……ゲームとやらがよくわからないのだが……世界を救う方法を幾通りもシミュレーションをするのはわかるとしても、何故わざわざ恋愛をする必要が?」

「それは聖女の力の根源が、恋だからよ」

「……建国神話にも似たような話があったな」

「あれに書かれてる伝説は、ほぼ事実よ」


 設定の裏を知っている私は断言する。


「聖女様は建国王に恋をした。そして、彼を救いたいという愛の力で7人の勇士の力を束ねて厄災を封じたの」

「まるで現実味のない話だから、てっきりおとぎ話だと思っていたが」

「事実は小説より奇なり、ってやつね。でも……」

「わかっている、お前の語る言葉を否定する気はない。……少し受け入れがたかっただけだ」


 それ、疑ってるって言わない? とは思ったけど言わないでおいた。

 荒唐無稽な話を疑いつつも、受け入れた上で結論を出そうとする態度は十分誠実だ。

 まあ……生まれた時から聞かされてるおとぎ話が、ほぼ事実と言われたら困るよね。

 私も桃太郎が事実、とか言われたら何それって思うし。


「私たちにとって、この伝説が他人事じゃないのが困るところなのよね」

「ああ、ハルバードもミセリコルデも、聖女に力を貸した勇士の家系だからな」


 世界を滅ぼす厄災と戦ったのは聖女と建国王だけではない。伝説には彼らに協力した勇士7人の名前が記されている。厄災を封じたあと、国を開いた建国王に勇士たちは臣下として仕えた。ハルバード、ミセリコルデ、クレイモア、カトラス、モーニングスター、ランス、ダガー。武器の名前を冠する7家はいずれも勇士たちの末裔なのである。


「ゲームの目的は、聖女の恋を支援し勇士7家を守ること。ということはつまりこの先に待ち受けているのは……」

「厄災の復活よ」



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