王様の首をすげ替えろ

「王の首をすげ替える? どういう意味だ」

「言ったままよ。私はやらなくちゃいけないことがある。でもその目的を達成するためには、王室の解体……最低でも現国王夫妻を排除する必要があるの。王子様が国に残るかどうかは、彼の行動次第ね」


 世界救済のために、腐った王室は邪魔でしかない。

 今は大きな実力差があるけど、いつかは退けなければいけない相手だ。こんな大それたことに、フランを巻き込むわけにはいかない。


 でも……フランはそれを聞くと、大きく息を吐いて肩を落とした。


「なんだ、そんなことか……」

「そんなことって、どういうことよ! 勝手に王様の進退語ってるんだよ? だいぶ頭がヤバいこと言ってるって思わないわけ?」

「国王夫妻の可及的速やかな退位と、王子への権限移譲は宰相家と大臣たちの間では決定事項だ。現在、まともな貴族は王子の成長を待ちながら、王妃を排除するタイミングを見計らっている」

「……え」

「国の行く末を妙に知っているお前が、それを言い出したところで、特に驚きはしないな」


 そういえば、フランの実家は宰相家。つまり国王のすぐそばで国に関わる政治のスペシャリスト集団だった。

 彼らがあの横暴王妃と影の薄すぎる王と見て、何とも思わないわけないか……。


「宰相家が、何故『とどめのミセリコルデ』の名前を冠していると思っている。失道した王に引導を渡すのもまた、ミセリコルデの役割だ」

「怖ぁ……。王政っていっても、王様が最高の絶対権力者ってわけじゃないのね」

「お前は妙なところで世間知らずだな……強力なカリスマがトップに立てば国は安定するが、逆にトップが狂えば国全体が病む。国を蝕む愚かな王を廃して国をまともに運用するのは、国政に携わる高位貴族の仕事だ」

「そういうものなんだ……」


 なんか、ファンタジー世界の王様って、国の権力を全部牛耳ってるもんだと思ってたわ。


「考えてもみろ、建国王と聖女の血筋とはいえ、王族も所詮人間だ。長い歴史の中ではどうしたって能力的に君主たりえない者も出る。その時に道を正すシステムがなければ、国という大きな組織を長く続けることはできないぞ」


 さすが国を支える宰相家で育った男。政治に対する視点が違う。

 正直、どうやって王様たちを引退させたらいいかあんまりいいアイデアがなかった私より、ずっと堅実に状況を見据えているみたいだ。


「それで?」


 ぎし、ともう一度ソファが鳴った。

 フランが私に顔を寄せる。


 近い近い近い!

 見た目11歳でも、情緒は18歳なんだから、もうちょっと手加減して!


「世間知らずのお前が、何故無謀にも王室排除を目標にする? 説明してもらえるんだろうな?」

「う……」


 フランには、もう私の事情に巻き込まれる覚悟がある。

 これ以上、抗いきれない。


「いいけど……何を聞いても絶対に、嘘だとか妄想だとか言わないでよね?」


 私は全てを洗いざらいぶちまけることにした。

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