的確な嫌がらせ

 結婚式で花嫁より目立ってしまった貴族女子に『白百合』の称号を与えること。

 それのどこが嫌がらせだというのだろう?


「お嬢、奥様の実家が地方の子爵家だってことは知ってるか?」

「ええ。ハルバードのおじい様と違って、あまり関わりはないけど」

「さてここで問題だ。ろくに後ろ盾もないくせに、とんでもなく美人で王家から称号までもらった女子がいる。貴族の男連中はこれを見てどうしようと思う?」

「……めちゃくちゃ都合のいい嫁候補、って思うわね」


 二つ名持ちの嫁なんて、どこに出しても自慢できる。

 しかも、実家は権力を持たない田舎貴族。手に入れてしまえば、あとはどうとでもなる。母様を巡って、どんな騒動が起きたのか……考えるだけで胸が悪くなる。

 称号を返上しようにも、国王陛下から賜った褒美だ。おいそれと返せるわけがない。


「で、その騒動を収めたのが、ハルバード家だった、ってこと?」

「さすがに、当時宰相家に次ぐ権力を持っていた大物侯爵の跡取相手じゃあ、誰も敵わねえからなあ。旦那様自身も、当時は炎刃として人気があったから、男の魅力で対抗しようとする奴もいなかったみたいだ」

「そしておじい様の権力に守られて平和に夫婦をやっているうちに太って、世間の興味が薄れていったわけね」

「今のハルバード家は、庇護者のいねえ状態で人気だけが再燃している状態だな。今までマシュマロ侯爵と侮られていたぶん、状況はかなり悪いと思ったほうがいい」


 それを聞いて、思わず重い溜息が出た。


「兄様たちがあれだけ頑張っても、嫌がらせが減らないわけだわ……」

「あ、あのっ、お嬢様のことは、ボクたちが守るから! あ、安心、して、ね!」

「うん、頼りにしてる!」

「わわわわ、だから! ボクの頭はなでなくていいから!」

「……何をやっとるんだ、お前は」


 戸口から、ひんやりとした声が聞こえてきた。

 振り返ると兄様が立っている。


「あ、あれ? 兄様、どうしてここに?」

「自分の屋敷だ。どこにいてもおかしくないだろ」

「でも、まだ午前中よ? 学園で授業を受けてたんじゃないの」


 私は窓の外を見た。間違いなく、昼食前の時間帯だ。


「早退してきた。俺経由で父様に関わりたい部外者が学園に入り込んで騒動を起こしたからな。俺が学園にいると周りに迷惑がかかる」

「なんでそうなるのよ! 兄様は悪くないじゃない!」

「部外者を呼び込むようなことをした俺の立場が……いや、そうだな。悪くないのか」

「馬鹿なことをする馬鹿な連中の責任まで、兄様がとる必要はないわよ」

「……そう、だな」


 兄様は苦笑すると私の頭をなでた。

 なでなでは嬉しいけど、私は普通のことしか言ってないわよ?


「お嬢のそういうはっきりしたところは、かっこいいと思うぞ」

「当たり前よ」

「はは……リリアーナらしい」

「それで、若様はヒマを持て余してこっちに来たわけだ。せっかくですから、お嬢と一緒に魔法の勉強でもしていきますか」

「最近は護身術三昧だけどねー」

「そうさせてもらおう。休んだぶんの単位の事は、今日は考えないことにする」

「単位?」


 ジェイドがこてん、と首をかしげた。

 彼にはあまりなじみのない単語だったようだ。


「学校の授業のことよ。決められた科目を決められた数だけ修了しないと、進級できないの」

「へえ、学校ってそんな仕組みになってるんだね」

「何他人事みたいな顔をしてるのよ。あんたも、何年かしたら王立学園に通うのよ?」

「ほええええええ? ぼ、ボクが、学園に?」


 ジェイドは目をこぼれんばかりに見開いた。



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