王立学園はいかにして作られたか
「あーすまんお嬢、俺の教育不足だ。あんたの従者になるなら、そっちの常識も教えておくべきだったな」
「別にいいわよ。つい半年前までは病気だったんでしょ? 学校に通うとか、そういう将来について考えたことがなかったのは仕方ないわ」
「えっと……お嬢様、王立学園ってどういう所なの、かな? お嬢様や若様のような、貴族が通う場所、のはず、だよね」
「確かに生徒は貴族が多いけど、別にそれだけの場所じゃないわよ。実際、あんたの師匠のディッツだって、卒業生のひとりだし」
「ええええええ? 師匠ぉお?」
ジェイドが慌ててディッツを振り返る。
「あれ? 言ってなかったか?」
「聞いてないよ! それに! なんでお嬢様のほうが知ってるの!」
「私と兄様が知ってるのは、採用の時に履歴書を見たからね」
「し、知らなかった……師匠も貴族だったなんて」
「いや、俺は農村出身の庶民だから」
「ど、どどどういうこと?」
「うーん、これは一度ちゃんと学校について教えておいたほうがいいかもしれないわね」
「じゃあ、リリィが教えてあげるといいよ」
にっこり。
お兄様はそれはそれは綺麗な顔で微笑みかけてくださった。
え、何。
今から私が解説する流れになってる?
「魔法の家庭教師をつける前に、ハーティアの歴史は一通り学んだんだよね? だったら、全部説明できるはずだよ」
にっこり。
「……」
つきあいが長いようで短い兄にしては珍しいリアクションだ。
だが、なんとなく意図はわかる。
面白がってるな? この兄は!
「しょ、しょうがないわね……説明すればいいんでしょ、説明すれば! でも、ちゃんとできたら誉めてよね!」
「当然。頑張った子は評価するよ」
やると決めたらやってやろうじゃないの。
「リリィ、王立学園ができた、きっかけは何だったっけ?」
「戦争でボロ負けしたからよ」
「正解。よくわかってるじゃないか」
兄様は早速私の頭をなでてくれた。ふはは、この調子でもっとなでるが良い。
「……せ、戦争? 学校が?」
ジェイドが目をぱちぱちと瞬かせる。
まあ、お勉強をする場所が戦争と関係あるなんて、ちょっと想像がつかないわよね。でも、歴史を紐解くとそうなるのだ。
「今でこそハーティアは大きなひとつの国だけど、建国王と聖女がまとめるまでは、いくつもの小さな国の集まりだったのよ。ハルバード家も、もとはサウスティっていうひとつの国だったの」
「じゃ、じゃあ、時代が、時代なら、お嬢様は……お姫様だった?」
「500年以上前の建国当時ならそうだったかもね。とにかく、元は別々の国だったことだけわかればいいわ」
「そ、それが、戦争と関係、してくる?」
「ええ。建国から50年後……くらいだったかな? ええと、太陽暦104年に東隣のアギト国と戦争になって負けたのよ」
「ボロ負け、って言ってたね」
「国土の半分が占領されたそうだから、歴史的大敗北よねー。なんとか王都を守り通して、領地を取り戻したけど、停戦までに20年以上かかったそうよ」
「うわあ……大変」
「敗北の原因は、連携不足よ。さっきも言ったけど、元が別の国だったせいで、兵の動かし方も、食料の運び方も、のろしの意味も、ばらばらだったの」
「それじゃ、一緒に戦えない、ね」
「大敗北に反省した国の首脳陣は、貴族子弟……主に兵士を管理して指揮を執る立場の領主候補たちを集めて、騎士教育を受けさせることにしたの。全員が同じ教えを受けていれば、とっさに手を取り合って戦うことができるでしょ?」
「そっか……そうだね」
ふむふむ、とジェイドはうなずく。
「単純に兵の運用が共通化されただけでも効果があったらしいけど、それに加えて同世代が一緒に勉強することで、新しいつながりが産まれたりもしたそうよ」
「ハーティアの国を強くするために、学校が産まれたんだね。……あれ、で、でも、それだとやっぱり、生徒は貴族ばっかりになるんじゃないの?」
「当初はそうだったみたいね。でも、戦争って騎士だけでやるものじゃないじゃない?」
「う、うん?」
ジェイドはまた、目を瞬かせた。
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