ぼくのかんがえたさいきょうのまほう
私が指した部分を見て、ディッツはひょい、と片方の眉を器用に上げた。
「ああ、雷の魔法がどうかしたか?」
「どうかって……雷なんて属性、兄様の持ってた教科書には載ってなかったわよ」
ゲームのチュートリアルにも。
この世界の魔法には、よくあるゲームと同じで『属性』が存在する。火、大地、風、水、そして光と闇。ゲームとしてこの世界を体験していた時は『テンプレありがとうございます!』と深く考えずに遊んでいた。
だから、この世界の魔法は全部で6属性だと思い込んでたんだけど。
ここに書かれている『雷』って、一体何なの?
「あー、それは利用不可属性だな。そうか、最近の教科書にはもう載ってないのか」
「どういうこと?」
「あああ、あの、あのね、雷の属性の魔法はあるんだけど、使えないん、だよ」
「使えない?」
「だって、あの、雷を落とすのは、人間には、無理、だから」
ジェイドは一生懸命説明してくれているけど、さっぱりわからない。
ある、けど使えない属性魔法、ってこと?
「あー、どう説明するのがいいかな」
ディッツは、がりがりと頭をかいた。
「お嬢、雷が落ちるのを見たことあるか?」
「あるわよ」
この世界では珍しい自然現象だが、現代日本では夏の風物詩だ。
「ソレを人間の魔力を使って再現するのが、雷属性の魔法なんだが……ぶっちゃけ、雷落としに成功した人類はこの世に存在しねえ」
「ええ? 本当に?」
魔法の世界なのに!
「確かに雷は強力だし、空からあんなモンを落とすことができたらすげえだろう。だがな、あんなド派手な魔法、魔力がいくらあっても足りやしねえんだ」
「えーと、つまりエネルギー不足ってこと?」
「多分、魔力にあふれた竜でも100頭くらい集まらないと無理なんじゃねえかなあ」
雷には莫大なエネルギーがある、と言う話は聞いた覚えがある。いつか見た古い映画では、そのへんの車のバッテリー程度じゃ、タイムトラベルをするエネルギーが手に入らなくて、わざわざ雷が落ちるのを待ち構えるシーンが描かれていた。
それを人ひとりの力で作りだすのは、魔法の世界であっても不可能らしい。
「それだけコストをかけたとしても、起きるのは『雷が落ちた』っつー現象だけだろ? 光が欲しけりゃ、火の魔法を使って種火を作ればいいし、敵を攻撃するなら、もっと他に効率のいい魔法がある」
「がんばって使っても、メリットがあまりないのね」
「それでとうとう、教本から姿を消しちまったわけだ」
よくよく見て見れば、ディッツの教本の中でも雷の魔法は概要を説明しただけで、使い方については何も書かれていなかった。使う方法が存在しないからだろう。
「電撃魔法とか、便利そうに見えるのになあ」
自分で電気が作り出せるのなら、スマホも携帯ゲーム機も充電し放題だ。バッテリーを気にせず遊べるなんて、パラダイスじゃないか。通信用の電波だって自分で作れたら、パケット通信料を安くできるかもしれない。
まあ、家電製品自体が存在しない世界でそんなこと言っても、無駄なんだけどさ。
「ん? 雷って使う方法がないから、存在しない属性になってるんだよね?」
「まあそうだな」
「じゃあ、雷以外にも力として認識されていない力は、新しい属性になる可能性がある?」
例えば、重力とか、磁力とか。
小夜子たち日本人は小学生のころからニュートンのリンゴの話を聞いたり、磁石遊びをして育ったから、どちらの力も身近なものだ。
でも、この中世に似た世界ではどうだろう?
この属性の分類から考えると、どっちも存在を認識されてない感じだよね?
認識できていないものは、利用しようがない。
でも、認識できている私が術を作れば、利用できるようになる、かも……?
「ははっ」
笑い声に顔をあげると、ディッツが生ぬるい表情で私を見ていた。
「新しい力かー、うんうん、発見できたらすごいかもなー、発見できたら」
「ちょ……!」
この顔は、見たことがある。
主に現代日本で。
「魔法の勉強を始めた子供はみんな同じことを言い出すんだよなー。新しい術式を編み出して見せる、とか、新しい属性系統図を作って見せる、とか。夢があっていいねえ」
これは、『中二病患者を見る目』だ!
新しいものを勉強し始めて、『ぼくのかんがえたさいきょうのまほう』を語りだしたのを見て、思わずほほえましくなった大人の目だ!
確かに今の発言は、それっぽかったけど!
「ち、ちがうわよ! 私は、夢物語を言ってるんじゃなくて! 本当に使えそうな属性のことを考えていたの!」
「おー、そーかそーか。じゃあ応用研究に着手できるよう、基礎を固めていかないとな」
「話を聞けええええええええ!」
絶対、新魔法を開発してやるうううううううう!!!!!
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