5.ボルカノダンジョン1階層〜予想よりたくさんの人が出入りしたようでした
入り口は、一応それっぽく器の柱などが建てられていて、ダンジョンへ潜る際に、任意で提出するダンジョン入洞届の掲示板がある。一応予備の白墨を持ってきたので、幾つか置いておく事にした。残っているチビた白墨で、念のためにアレンダンの名前を掲示板に書き入れる。掲示板がわりの黒板は、あちこちに指で消された名前があって、正直ごちゃごちゃしていて読みづらいのだが、アレンダンの他には新しい名前は無いようだ。これが有名ダンジョンなどになれば、入場料を設けたり、出入りの際にギルドにあるような記録水晶を置いたりしている所も多い。
(これ、とりあえず入黒板と出黒板に分けた方がいいな。黒板に白線引いて、わかりやすくしとくのもアリかな……ダンジョン用の簡易記録水晶は、前の役曰く壊されたって事らしいけど…)
「ま、こればっかりは証拠がないとな。さあ、入ってみるか」
気合を入れるために独り言を言って、それでも普段通りの足取りで、アレンダンはボルカノダンジョンへ足を踏み入れた。
◇◇◇
(まあ、今日は1階層だけだな。マップチェックとか……)
ボルカノダンジョンは、頭に叩き込んだ情報が間違っていないのなら、トラップなどは少なめの自然派ダンジョンと言って良いだろう。ただ、トラップこそ少ないのだが、その自然が問題なのだ。
「やべぇ…初っ端から溶岩かよ……」
下の階層を覗ける空間から下に見えるのは、真っ赤な溶岩だ。かなり下にあるのだが、熱気は凄まじかった。そして、ちらりと見えた限りでは、もっと近い階層にも溶岩が近くまで来ている場所もありそうだ。
「あっつい……こりゃ、用意は慎重にしないとな」
それでも、アレンダンは詳細なマッピングをしながら歩く。ダンジョンは時折その姿を変えると言われはいるのだが、こんな浅い階層はあまり変わらないとされている。
(うん、広さとか形とかちょっと違うかな)
ギルド御用達のマッピング専用のノートに素早く書き込みながら、1階層を隈なくチェックした。この階層は、どうやら魔物の類はほぼいないようだ。ただ、鉄鉱石と稀に宝石出る区画があり、ダンジョンならではの恩恵で掘り尽くしても時間が経てば復活する事から、近くの住人が時々採りに来るようだ。
寄ってきた洞窟コウモリと呼ばれる小型の魔物を、双剣の片方で素早く壁に串刺しにして倒すと、コウモリは程なくして魔石と爪をその場に残して消失した。
「うんうん、レイヴァーンの神々、そしてボルカノダンジョンの恵みに感謝します♪」
手元のマップにコウモリが出た地点に印をつけながら、ドロップ品を拾い上げた。2つ出るとは縁起が良い。
冒険者と一口に言っても、護衛や魔物の討伐、賊討伐やダンジョンの探索など、仕事の種類は多岐にわたる。その中でもアレンダンはダンジョンに潜るのが1番好きだった。
(トーヤとアーニャは魔物討伐の方が好きだったっけか…)
準備や下調べ、一度潜れば風呂にも入りづらく、排泄の際も気を遣うダンジョンは、特に女性冒険者には不人気だ。
(生活魔法がうまく使えればそうでも無いけどな)
アレンダンに言わせれば、洗浄魔法を改造して、服を濡らさず汚れだけを取り除くようにアレンジすれば良いだけなのだが、細かな操作が求められるせいなのか、まだまだ不人気だ。アレンダンは、自身の持つスキルの特性も相まってか、特に面倒は感じないのだが……
(女だから細やかなのが得意、男だから大雑把とか言うわけでも無いもんな。性格だよな)
鉱石の地点で、いくつかの石を採掘してバッグに入れた。少し色が違う石を軽く眺めて、簡易的にスキルを発現させて……その石もバッグに入れた。
採掘のポイントから、50メートルほど進んだ先の下り坂の狭い通路を抜けると、そこから2階層だ。通路の途中に光虫が居たのでそれもメモしておく。
「ま、帰ったら作業する物もあるし……思ったより早いけど、今日はこれで良いや」
吹き抜けのようになっている場所の天井に、コウモリの群れがいる。コウモリは天井の穴に吸い込まれるように消えていくので、もしかしたらその穴から先程の地点に出るのかもしれない。
アレンダンの手元のマップは、3時間ほどで書き込みだらけになってしまった。
「案外1階だけでもそこそこ見所があるって言うか……地元民も使えるいいダンジョンだな」
アレンダンは独り言を言いながら、足元の薬草を何種類か摘み取った。
「そこそこ植生も豊富そうだ」
だからこそ、腑に落ちない事がある。このダンジョンに潜った冒険者や冒険者パーティーのうち、その後の行方が分からない者が、20人以上いるらしいのだ。しばらく行方知れずになり、その後離れた街で見つかった者たちは、すぐに廃業してしまってその後の行方はわかっていなかったり、分かっていてもボルカノダンジョンについては言葉を濁すばかりで要領を得ない。
(何かあるんだろうな)
アレンダンの口角がニヤっと引き上がる。
「だからこそ、ダンジョンだろ」
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