6.ボルカノダンジョン第1階層のまとめ〜予想より楽にマップができました
第1章
6.ボルカノダンジョン第1階層のまとめ〜予想より楽にマップができました
アレンダンは無事に宿屋に戻った。ちなみにミクシの宿の名前は「
蒸留酒を
どうにもならない部分はあるだろうが、裏庭でできるだけ装備を外し、隙間や服に入り込んだ灰を落としてから中に入る。
「お兄さん、おかえりなさい!灰凄かったでしょ。わざわざ落としてくれてありがとね」
アレンダンはミクシの声に振り返った。
「ただいま、ミクシちゃん。本当にミクシちゃんに言われた通り明日か、風向きが変わってからにすれば良かったよ」
「お疲れ様。でもね、チャックさんたち助けてくれたんでしょ? お礼言いにきてくれたよ。猪がとれたから、解体終わったら明日お裾分けしてくれるって言ってた。ささ、お風呂に行ってきて!」
洗濯籠を抱えたミクシは、笑顔で風呂を勧めて去っていった。
「ありがとう。そうするよ」
シンプルなチュニックタイプの半袖と、膝下までのロングキュロット姿のミクシの、何処か弾むように歩く後ろ姿を見送って部屋に戻った。
「さきに風呂行こう……」
灰まみれの装備の手入れは後にして、温泉に入った。飲用温泉水と書いてある蛇口から出てくるぬるい湯を飲んでみる。なんとなく塩気を感じた。
洗い場で体を洗い、髪も洗ったところ、髪の指通りがありえないほどキシキシと引っかかる。灰の粒子はトゲトゲしているというが、もしかしたらそのせいだろうかと考えつつ、身体を覆う倦怠感には抗えず、早々に湯船に浸かる。
「ちょっと熱いけど、幸せ〜……毎日風呂入れるって、贅沢だよな〜……」
しばらくそのままボーっと天井を眺める。高い仕切りの向こうの女風呂には誰かいるようで、声が聞こえる。
「あー…」
アレンダンの声は湯気にかき消されるようにくぐもって消えた。
(チャックさん、だっけか……獲物の解体出来るのかな……できなくても、解体仕事を頼める人知らないかな)
思考はギルドのボルカノ支部の立て直しのほうに流れていった。建物の方は多分またギルドの方から連絡はあるだろうが、おそらく月賦の申請は通る気がする。そうなると今度は解体と買取を受け付るのがギルドの大事な仕事だ。アレンダンは保持スキルの関係もあって解体は得意な方ではあるのだが、今後ギルドに持ち込まれるものを全部自分で解体して買取管理までするというのは無理な話だ。
(解体を別の人に頼むなら、氷室の管理は徹底しないとな……ミクシちゃんに温度の管理やってもらえないかな……もちろん管理費は払って)
今までの雑用は、ミクシ達がほぼ無償でやってくれていたのが分かっている。それは良くないし、アレンはそういう経費の不透明な所を報告するようにも言われて、ここまで来ているのだ。
湯気の中に大きな水の粒が見える。それらは天井まで登っていき、アーチ状の天井をつたって、壁から床に落ちていくようになっている。しばらくそれを眺めつつ、アレンダンの頭の中はどちらかと言えばギルドを整える金勘定の事がぐるぐると回っていた。
「いやいや、その前に今日のマップだ」
アレンダンは慌てて立ち上がった。まだ日はそこそこ高いのに、思わず仕事して風呂の後は寝る、ような心算になっている。思ったより長く浸かっていたようで少しだけふらりとしたのでさっきの温泉水を飲んでから水気を拭って服を着た。
◇◇◇◇◇
「おう、ここンとこは御影石が月1くらいで出るぜ。先週俺が多めに採ったから、多分今日はなかったのかもしれねぇ。すまんな」
「いやいや、教えてくれて助かります。御影石…」
「ニック、そこは御影より砥石の方が多いだろ」
「砥石ですね……いいなぁ。砥石が多い…と」
「お、兄さん剣使うんだよな。要るかと思って持ってきたんだよ。今日の礼にもならんけど」
「いいんですか?ありがとうございます!」
「はーい、カツオの腹皮とお湯割り2つだよ」
「ほれ、兄ちゃん。飲め飲め」
「いただきまーす!あ、旨い〜」
「こいつの塩気がたまらんぞ」
「ありがとうございます。俺遠慮しませんよ?」
「食え食え!」
宿屋兼食堂兼酒場の「命の水」は、今夜は盛り上がっていた。チャックが早めに解体が終わったと言って、アレンダンに大きな肉塊を持ってきてくれたのだ。アレンダンはそれを当然のように宿にプレゼントしたので、ミクシもドルクも大喜びだ。
そして、アレンダンが作っているダンジョンの最新マップの話になり、今日も来ていた大工のニック、肉を持ってきたチャック、そしてチャックとバディを組んでいるヤタローも畑で採れた野菜をアレンダンへの礼だと持ってきて———それもミクシ達へ贈られた。
その後はキープボトルからちびちびと酒を飲みながら、マップにあーだこーだと付け加えている。
(要は、若い新人にチョット偉ぶりたいんだよね〜)
ミクシは、ふふふと笑って皿を運ぶ。
アレンダンの膝の上にはなぜか当然のように猫のイコモチが座り、時折伸びをしているのが見える。実はイコモチがあのように客の膝に乗るのは珍しい。
「暑くないなら良いんだけど」
「ほれ、出来たぞ」
父親がずいっと焼き魚の皿を出す。
「はいはーい」
「……懐いてるな」
ボソリと言った父親に、ミクシは微笑んだ。
「そうなの。暑がり同士なのにね」
「だな」
アレンダンは、さらに書き込みだらけになったマップを眺めた。ニンマリと口角が上がっている。
客はだいぶ少なくなり、子連れの従業員は皆帰ったようだ。
「お兄さん、ご機嫌だね」
「うん。思ったよりいい感じなんだ」
ボトルとコップを置いてくれたミクシに向けた顔は、チョット照れくさそうだった。
「ボトルと、これは名札。宿代前払いしてもらったからちょっとだけオマケしとくって、父さんが」
「ありがとう」
「こっちこそ、お肉もお野菜もありがとう」
「いや、向こうもそのつもりで持ってきてくれたんだろうから」
ミクシはサラサラと名札に名前を書く手を眺めていた。その手は、剣ダコが目立つ骨張った冒険者の手だが、どちらかと言うと細くて長い。綺麗好きらしく、手指爪の手入れもされているように見える。
すると、ふと飛び乗った猫が、動くペンにじゃれついた。
「わ、さすが猫だ」
ハハハ、と笑う顔には、少しだけ寂しさがあるように見えるのは気のせいではないはずだ。
叩き上げの冒険者はたいてい年齢よりはだいぶしっかりしているように見えるものも多いが、多分それだけではないのかもしれない。
「今日は疲れた?」
ミクシが話しかけると、猫とペン争奪戦をやっていたアレンダンと目が合った。
「あー……うん、灰で目が痛かったかな。後は、溶岩が思ったより近いからビックリした」
「そうだよね」
「第1階層は、今の所変化も無いし大丈夫そうだね。1人で行くのは勧めないけど」
「お兄さんも気をつけてね」
「うん。ありがとう」
うん、と笑った顔は、やっと気の抜けた柔らかいものに見えた。
「遅くまでごめんな。そろそろ上がろうかな」
「ううん。こっちは気にしないで。イコモチと遊んでくれてありがとう。お兄さんが良ければゆっくりしてて!」
決して調理場へ入ることはなく、普段は客席にも来ない猫と戯れているアレンダンを、もう少し眺めていたいと思ったミクシだった。
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