マスクより息苦しい

「ちょっと熱っぽいんです」

研究員の和木下温子わきのしたあつこは体調不良を訴えた。

すぐさま『元気元気!はっぴっぴ~!熱量最高!仕事、情熱ぅ』に音声変換される。

『温子、ファイト!もっとヒート!』

上司のアイコンがポンポンや足を振り上げる。

温子はスカートのポケットからご禁制のスマホを取り出した。有志が設営した闇のプロキシサーバーにWi-FiをつなぎLINEで会話する。

ぷぅっと吹き出しが鳴り温子あわてた。とっさにスマホをスカートで包む。

バックライトを消し充血した目で暗い画面をタップする。

温子<『あなたも、仕事中に発熱したら、どこに電話をかけたら良いのか分かりますか?』

上司<『…わからない』


コロナ天国が受診を許さない。ワクチンよりも集団免疫の早期獲得を政府が選んだからだ。実際、砲艦外交の代わりに日本はワクチン供給の生殺与奪を大国に握られている。


暫くおいて、ぷうっ。


温子<『それは世界が変わってしまったからです。』


本当に一変した。温子の部門はヘアケア製品に関する特許を追及していたがアルコール消毒や検温から解放された代わりにコロナ天国に束縛されている。マスクよりも息苦しくて作業効率も落ちている。

上司<『現在の仕事を止めたくないという気持ちは本当にもどかしいです。』


温子<『そういうストレス、感情にとらわれ続けていたら、仕事と言えなくなってしまいそうです。』

上司<『でもコロナ天国をやめてしまったら日本人にもっと嫌われてしまう。』


どうか、あなたにはそう思って欲しくないと思うのです。

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