第683話 珈琲をお飲みに? 素敵ですわ!(百合。になる予定。強面女子×甘ふわお嬢様)
お恥ずかしいところをお見せしたというのに、
何と寛大な方でしょう。
私は改めて向かいの席に座り直し、パフェをご馳走になることに致しました。
このチョコレートパフェ、大変美味しゅうございます。
カカオの風味がしっかりと口内に広がるのはもちろんのこと、しかし決して苦いことはない。まろやかな甘みが口いっぱいに広がるのです。カカオの香り高さと甘みが、美しいハーモニーを描いているのです。そこへ、ラズベリーソースの甘酸っぱさが、舌を少し驚かせ、かつリセットしてくれます。また一から、甘みと香りを楽しめます。ナッツとシリアルのザクザク感も、お口を大層喜ばせて下さいまして、自身の中で歓喜の歌が鳴り響いているが如き倖せです。
私が、甘美な甘味の喜びに浸る中、向かいの彪さんは、涼しい顔で珈琲をお飲みになっていました。
聞いて下さい、ブラックです。真っ黒な、深淵の如きブラックの珈琲です。
しかも、エスプレッソなのです。
それを、苦そうな顔一つ見せず、お飲みになっています。
いえ、それどころか。
「……」
口に含み、薫りをかがれたのでしょう。
ふわ、と。
微かに口元を綻ばせていらっしゃいます。
安心したようなお顔、とも言えるかもしれません。
そう、お味を楽しんでいらっしゃる。
(イメージ通り……!)
そしてそれが、まったく格好つけている風もなく自然体なのです。実際、これが彪さんにとって自然なのでしょう。
珈琲の香りを愛で、その苦みを深く味わう──それが、見ているこちらにまで伝わってくるのですもの。
(こんなにゆったりと珈琲を味わわれるなんて……)
とっても、素敵。
思わず胸が高鳴って、私は自分に驚きました。
「? 万里小路さん?」
私の不躾な視線に気が付いたのでしょう。不思議そうな顔で彪さんがこちらを見やります。
私は慌てて、
「いえ、あの、どうして最初はこちらのパフェを頼んでいらしったのかしらと思って」
と話題を捻り出しました。
本当に気になっていたことなので、嘘はありません。
私の問いに、彪さんはブラックの珈琲を飲んでも出なかった苦り切った表情になりました。
「……」
「あ、言い難いことでしたら」
「いや」
聞いてくれるか、と彼女が言って、私は、もちろんと頷きました。
このお話が、すべての始まりだったとも知らず。
END.
こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16818093076393014856)の二人。
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