第682話 こんな美しいものを初めて見たんだよ(百合。になる予定。強面女子×甘ふわお嬢様)

 優美。

 万里小路までのこうじ花蓮を表現する言葉として、その言葉が一番相応しいと今、自分は実感した。

 白く細い指が、こちらの持っていたスプーンを摘まむ。服についた花弁をそっと持ち上げるような優しい仕草なのに、存外力は強い。

 だが、決して乱暴なことはない。それが持ち上げられた瞬間、こちらが勝手に力を抜きたくなるような自然さがあった。

 奪われたスプーンを、白い指が今度はしっかりと掴む。「スプーンはこうして持つと美しいですよ」というお手本通りの持ち方で。指先まで神経がしゃんと通っていると、一目でわかる。

 そして、そんな美しい持ち方をされたスプーンが、今まさに流れ出ようとするアイスをさっと救った。

 掬うというより、救うという言葉が相応しいくらい、それは素早く、流れるような正しい動作だった。

 救われたアイスが、彼女の口へと運ばれる。

 小さく開かれた唇は朱く、ラズベリーソースを思わせた。

 するりとスプーンが口内へと侵入し、そこでぱくりと口は閉じられる。

「ん」

 小さく、鼻から息が漏れ、声が零れた。彼女の黒く濡れたような瞳が、ゆっくりと三日月の形に細められる。口角もゆるゆると持ち上がり、頬がほんのり朱くなる。蕩けるようなその微笑に、自分は思わず魅入ってしまった。

「美味しい……」

 彼女は満足げにそう呟いたあと、はっと我に返り、「申し訳ございません」と今度は恥じらいに頬を染めた。

「はしたのうございましたわ……」

 目を伏せて言う様は、先ほどの妖しい美しさとは打って変わって、名前通り可憐な少女そのもの。

 どちらにせよ、それはあまりに……綺麗で。眩しくて。

「いや……」

 自分の鼓動が、やけに早くなった。

 何だ、これ。

「さっきも言ったが、食ってくれるなら助かるのはこっちだ」

 それを誤魔化すように、店員を呼ぶベルを押した。


 END.


 こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16818093076330738424)の二人。

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