第681話 これは順番抜かしにはなりませんこと?(百合になる予定。強面女子×甘ふわお嬢様)

 お気に入りのカフェのSNSをチェックすると、本日は新作パフェの発売日だと告知がありました。

 今日は、お友達二人は部活なので、下校は一人です。

 私は、大急ぎで自宅に帰り、着替えを済ませて(うちの学校は、塾とお稽古ごと以外の寄り道は厳禁なのです)、カフェへと向かいました。お手伝いの山上さんに「お夕飯は遅めでお願いします」と言伝もしっかりと致しました。

 パフェを楽しむ準備は万端です!

 と、勢い込んで入ったカフェは満席。

 まあお時間まで御本でも読んで待ちますか……と思いつつ、ふと視線を店内にめぐらしたそのときでした。

 森の中の一軒家をイメージした、木と緑の温もり溢れる店内の一角、ちょうど入口に近い二人席に、その方がお座りになっているのが見えました。

 チョコレートパフェを前に、まんじりともせず座っていらっしゃるその方は、

「あら? あきらさん?」

 級友クラスメイトの彪さんでした。

 鋭い印象の眉と眼を、更に険しくなさっていて、ただ事ではないご様子。

 思わず、ふらふらと彼女の方へ近寄ってしまいました。

「……万里小路までのこうじ、さん」

「彪さんも、パフェを?」

 パフェを前にしているのですから、とんでもない愚問です。けれど、そう問わざるを得ないくらい、彪さんはパフェに手をつけていらっしゃいません。

 いけません、上のアイスが溶けかけて、そろそろグラスの縁伝いに零れてしまいそう。

 もったいない、食べちゃいたい、という心の声を押し込めつつ、微笑んでみました。

「アンタも、パフェを?」

「はい。今は順番待ちをしているところなの」

 です、と続く言葉は、ガシリと腕を掴まれたことにより遮られました。

「……頼みがある」

 低いお声は、何というか少女らしからぬ渋みがございまして、ほんの少し、胸がときめいてしまいました。

「何なりと」

 だからでしょうか。内容も聞かずすんなりとそう言ったのは、致し方ないことだと申せましょう。

 すると彼女は、パッと目を輝かせました。

 いえ、わかりやすく笑みを浮かべたわけではありませんでしたが、そうとしか言いようのない輝きがありました。

「助かる!」

 このパフェを食べてくれ、奢る!

 私は、喜んでと言うより先に、彼女の手からスプーンを掬い取り、縁から泳ぎ出んとしているアイスをサッと捕まえました。

 ……はしたない、とは、重々承知の上で、やはり流れ出るアイスの勿体無さには勝てなかったのでございます。


 END.


 こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16818093076105306241)の二人。

 邂逅。

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