第680話 悪ぃな、ここに無ければねぇんだわ(百合。になる予定。強面女子×甘ふわお嬢様)

 本日の朝食の席にて。

「おめぇは怖ぇ顔してんだから、ちったぁ可愛げのある趣味を持ったらどうだ」

「……可愛げのある趣味?」

 納豆をかき混ぜる手を止め、声の主……自分の父親の方を見た。

 スキンヘッドの頭に、いからせた眉、鋭い切れ長の眼。ガタイがいい上に背も高い。

 まちで親父殿とすれ違った人間は皆、ほぼ例外なくそっと脇に退く。

 端的に言って、人をビビらせることにあまりに長けた見た目だった。

 そして、自分はこの人によく似ているという。……否定はしているけど、正直、眼は自分でも似ているなあと思っている。

「そうよ。ぬいぐるみ集めとか、パフェ食べまくるとか、何かあんだろ」

 おこうこをバリバリと噛みしめながら、親父殿は言った。

「ぬいぐるみはさておき、パフェを食べまくるのは、いっそ可愛くないと思う」

 それはフードファイター的な趣味ではないか。

「細けぇことは良いんだよ。とにかく、可愛らしい趣味の一つや二つ開拓してみろってんだよ」

「何のために」

「そりゃおめぇ」

 そこで親父殿が、あからさまに眉を顰め、唇をひん曲げた。

「来週の為に決まってんだろ」

「らいしゅう……」

 呟いて、ため息を吐く。親父殿も同じくだ。

「なんたって『伯母様』のお茶会だからな……」

「……」

 父にとっての伯母、自分にとっては大伯母の『お茶会』は、避けては通れぬ関門なのだ。

「うちの『商い』のためだ。背に腹は代えられねぇ」

「……はあ」

 今までは何のかんの言って避けて通って来た自分だが「今回は是非、あきらちゃんも参加してね」と念押しされたらしく、逃げられなくなった。

「来週までに、何とかしろ」

「……」

 趣味って、来週までに何とかなるもんなんだろうか。

 自分も、ぽりりとおこうこを齧って首を捻った。


 ※


「お待たせ致しました、こちらスペシャルチョコレートパフェ、ベリーソースかけでございます」

「どうも……」

 放課後。

 とりあえず『可愛らしい趣味』のため、学校と家のちょうど中間にあるカフェに寄った。

 目的は、このパフェだ。

(ぬいぐるみは、後に残るから挑戦するのにハードルが上がるけれど)

 消えものなら。

 というわけで、今朝話題に上った『パフェ』に挑戦することにした。

 が。

「……いや、甘いな??」

 ひとさじ掬って、口に含む。

 甘い。

 圧倒的に、甘い。

 チョコレートアイスの部分も食したはずなのに、甘い。あとベリーソースの酸味が、より酸っぱく感じて、個人的所感としては、辛い。

 恐らく、これはそういうハーモニー的なものを楽しむものなのだろうけど。

「チョコレートなら、まだマシかと思ってたのに」

 しかし思い返してみれば、普段口にしているチョコレートは、高カカオ成分のもので、たぶんだがこのチョコレートクリームやアイスは、そういうのではない。

 だから、思いのほか甘い。

 脂汗が出て来る。

 チョコでこれなら、他のベリーパフェだのモンブランパフェだのはどうなってしまうのか。

 甘さの地獄ではあるまいか。

 たらり、と背中を流れる汗の不快感たるや。

「そして多い……」

 パフェの器は、どうしてこんなにも背が高いのか。中にたっぷりアイスやらクリームやらが詰まっているのか。

 これを完食せねばならないとは、苦行。

「もういっそ大伯母さまには、現実を見て頂いて……」

『そんな見てくれで、そんな中身で。どうしようもないわね』

 最期に会った大伯母の顔が、頭の中で大写しになる。

 ひゅ、と息が詰まった。

 カツンッと澄んだ音が、手元から聞こえる。スプーンがグラスの縁に強く当たってしまったらしい。

 いけない、と思うのと、

「……あら? 彪さん?」

 声が降って来るのは、ほぼ同時だった。


 END.


 こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16818093076041234202)の彪さん。

 もちろん、最後に現れたのは彼女です。

 明日はお休みで、次回更新は4/29月曜日です。

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