第679話 恐れ入ります、ギャップの扱いはございませんの(百合。になる予定。強面系女子とゆるふわお嬢様)

(はあぁぁぁ~~~素敵ですわ~~~~~!)

 学校帰り。

 ホームで電車を待っていると、その方たちが目に入りました。

 それぞれに似合いの綺麗なワンピースドレスを身に纏い、楽しげにお話されている。重そうな紙袋を皆さん持っていらっしゃるのに、それを物ともしない倖せそうな雰囲気……。

(きっと、結婚式帰りですのね)

 私は、ほう、とため息を吐きました。

(憧れますわ~~~~~~~~!)

 柔らかな花弁を思わせるスカートは、薄紫に、ピンク、橙、翡翠。それらが、風にふわりと風に揺れると、花畑の香りが漂って来るような気すらします。

 耳や首元を飾るジュエリーが、キラッと控えめに光る様もなんて素敵。花弁や葉っぱがそっと頂く朝露が連想されて……

(いい……!)

 けれどわたくしは、それを素直に口には出来ません。

 何故なら。

「まあ。結婚式でしょうか。見てるだけで嫌になります」

「わかりますわかります。ドレスを見ると、あの窮屈さが思い出されて」

「でもうちの父ときたら『女の子は、ああいうドレスを見るのが無条件に好きだろう?』なんて言っちゃって! そんなわけ無いと思いません?」

「本当! 女がみんなドレスを見てキャッキャはしゃぐなんて思ったら大間違いです」

「ねえ、花蓮さんもそう思いますよね?」

「花蓮さんは見た目も華やかで女性らしいから、余計にそのような先入観を持たれて、迷惑なさっているのでは?」

 お友達の朋子さんと知美さんがこちらをじっと見ています。

 私は、口を開きました。

 ふと一瞬だけ、考えます。

『でも、あのふわふわのドレスも、きらきらしたジュエリーも、素敵でありませんこと?』

 自分がそう答えるシーンを。

 すると過ぎるは、いつかの日。

『何それぶりっ子?』

『イターイ』

『男子意識するのはその見た目だけでジューブンでしょ~』

「……」

「花蓮さん?」

 私は、はっと我に返り、笑顔を口元に、言葉を声に乗せます。

「人間、やはり先入観を持たずにいるのは難しいものですから……私も持っていますし。精進しなくてはと思っておりますの」

 彼女たちの『期待』を裏切らず、かつ、嘘にならないギリギリのラインを攻めました。

「花蓮さんったらご立派です」

「でも、確かに我が身を振り返れば難しいことでした」

 お二人は、同意と受け止め、話を続けます。

 私は、ほっと息を吐きつつ、虚しさを感じました。

 真の己を曝け出せない臆病さへの、憤りかも知れません。

 世は、大ギャップ時代。

 見た目のままでは居るのは歓迎されない時代です。

 おとなしそうな見た目の紳士淑女は、ガンアクションを始めとする派手な活動をしている方がよろしく、また好む食べ物も、激辛料理のようなインパクトのあるものの方がより良いとされる。

 そしてその逆、いかにも強面、強気な見た目の方々は、可愛らしいぬいぐるみや甘いお菓子に目が無い、という『実態』の方が期待されている……。

 そう。

 往々にして、見た目通りは最早通用しない時代になっていると、近ごろ皆さんとお話をしていて感じます。

 それは少々。

(苦しいですわ……)

 私、万里小路までのこうじ花蓮。

 色素の薄いふわふわのロングヘアに、しっかり校則通りに着用した膝下丈のフレアスカートの制服。腕時計は細身のベルト、文字盤にはシンプルかつ愛らしい花の意匠が一つ。ハンカチーフは白のレース。そこに施した刺繍は、たわわに実った木苺のもので、もちろんこれは自分でデザインを選び、刺繍したもの。

 そう。すべては、私の趣味。

 私は、この少女然とした見た目から想像され得るありとあらゆる少女趣味を、恐らく全肯定し、愛することが出来る女。

 ギャップなど、本来は無い人間なのです。

(もちろん、結婚式の煩雑さは重々承知ですし、実際参列したときも面倒でしたし。結婚制度自体も、祖母や母を見て、嫌というほどその大変さを理解してはおりますけれど)

 それでも、です。

 やはり、色とりどり、様々な意匠のドレスは目にとって良き栄養、キラキラと輝くジュエリーは、夜空に瞬く星、永遠の憧れであります。

(美しい服を身に纏って、甘いお菓子を頂く……そのようなタイプの幸福を、ありのまま願っていてはいけないものでしょうか)

 私がまた一つため息を吐く間に、「あら、南大路さんだわ」「まあ、本当」と話題が移り変わっておりました。

 お二人の視線の先には、クラスメイトの南大路 あきらさんが。

 すらりとした高身長に、ベリーショートの髪、切れ長の眼にしゅっと通った鼻筋。意志の強そうな眉と引き結ばれた唇。

 背筋を真っ直ぐ伸ばして立つそのお姿は、まるで武士のような佇まいです。

「あの方のお家って、本当に危ないお家なのかしら……」

「そう言われているけれど……」

 彪さんの目つきが少々鋭くていらっしゃることと、入学式の日に垣間見たご家族の雰囲気がまた鋭くお強いことで、入学したその日から「危ないお家の方」と噂されていました。

「でも、先入観を持たずに見れば、案外甘いものに目が無い可愛らしい方かも知れませんわ」

「眠るときも、ぬいぐるみを持っていたりしてね」

 くすくすと笑い合うお二人を横目に、

(もし。もしあの方が見た目通り、クールな方だったら)

 と夢想しました。

 珈琲はブラックでお飲みになり、流行の甘いものも殆どご存じない……。

 皆さんは、怖いと仰るかも知れません。見た目通り過ぎていけないと。

 でも私は。

(不思議と、その方が落ち着きますわね)

 お仲間が出来た、なんて。

 いけません。

 これは決め付けで、よろしくありません。

(ああ)

 素直な自分でありたい。

 それを貫ける強い自分でありたい。

 弱いところだけは見た目通りなのは、とても残念なことだと私はまたため息を吐いてしまいました。


 END.


 結婚式帰りの四人はこちら()の。令子さんは、式自体はウェディングドレス、行きと帰りは、お色直し用の普通のワンピースドレスを着ています。

 新シリーズの百合です~。

 明日はお相手の方を

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