第684話 御覧、星がきらきら瞬いてるよ(百合。になる予定。強面女子×甘ふわお嬢様)

「自分には、一族全員頭の上がらない偉大な大伯母さまが居るんだ」

「まあ……」

「その大伯母さまが、今度お茶会を開くってんで、そこに呼ばれてんだけど」

「お茶会! 素敵ですね!」

 万里小路までのこうじさんの瞳が、きらきらっと輝いた。

「多分、万里小路さんは好きだと思う……」

「やはり、あきらさんは甘いものがお得意ではないから……?」

 彼女が品よく小首を傾ぐ。そういう仕草も良く似合う、と感心しつつ、彼女の手元のパフェが残り僅かしかないことに気が付き、戦慄再び。

「それもある、けど、違くて」

 感じた戦慄を悟らせないよう、そっと視線を外し、言葉を続けた。

「その大伯母はさ……めっちゃくちゃ少女趣味なんだ」

「めっちゃくちゃ少女趣味」

 万里小路さんが一言一句違わず復唱する。

「女の子は、全員薔薇とフリルとケーキが好きじゃなくちゃいけないって思ってるレベル」

「それは……困りますわね」

 まさしく薔薇とフリルとケーキが好きそうな彼女だったが、意外なことに賛同はしなかった。

「だって、世界には色んな趣味の方がいらっしゃいますもの」

 私も『大人になったら絶対珈琲をブラックで飲むように』なんて言われたら困ってしまいますわ、と真面目な顔で彼女は続ける。

「……世界中みんなが、万里小路さんみたいだったらいいのに」

「あら、お戯れを」

 本心なのだが。

「ま、そんな感じだから、ちょいと自分は大伯母とは話が合わなくて。でも、今回のお茶会には絶対参加だって言われてるから、せめて少しでも話のとっかかりになればとパフェを頼んでみたんだが……」

 無駄骨だったなあと呟いて、珈琲を啜った。

 ああ、この薫り、苦み! こいつのすべてが自分を安堵させる!

「でも、素敵ですわ」

 にっこりと万里小路さんが微笑んで言う。

「ご自分の好みではないものに果敢に挑まれて、きちんとお相手に合わそうとなさるなんて」

「失敗したけどな」

「それでも、その挑戦自体が素晴らしいと私は思いますのよ」

 綺麗な瞳が、真っ直ぐに自分を見ている。

 そのきらきらした輝きに嘘は無い。

 咽喉の奥から、胸の底から、ぐうっと何か熱いものがせぐり上がって来る感覚。

 頬が熱く、口元がむずむずとした。

「……あんがとよ」

 素直じゃない自分は、すぐに視線を逸らしてしまったけれど。本当はそうするのが惜しいくらいに美しく、心地好い眼差しだった。

「あーあ。せめて、前にプレゼントされた小説くらいは読むかなあとは思うけど。これもなかなか……全部で二十四巻あって難しいんだ」

 照れ隠しに、話題を変える。

「あら、何という小説ですの?」

「『銀杏並木の真ん中で』っていうシリーズなんだけど」

「『銀杏並木』シリーズ!?」

 万里小路さんの声がゴム鞠のように弾み、瞳は一番星もかくやと言わんばかりの輝きを放った。

「し、知ってる……?」

「知ってるも何も! 私のバイブルですわ! 少女小説の金字塔! 乙女同士の友愛、敬愛、忠愛、すべてが詰まっている青春白書……!」

 朗々と歌い上げるように彼女は言う。

 まるで小説のキャッチコピーのようだ。

 実際、そうなのかも知れない。

「大伯母が、このシリーズが大好きでさ……」

「わかりますわ、わかります。ああ、語り合いたい……。かなり前のシリーズですから、私たちの年代で知っている方って、なかなかいらっしゃらなくて……」

 ほう、と熱いため息を吐く万里小路さんを見て、自分の頭の中に、キラッと星が閃いた。

「……じゃあ、一緒にお茶会に参加するかい?」

 その星は、たぶんあれだ。聖書で見たあの星だ。

 救い主はこっちに居るよと、羊飼いと博士に示した道しるべ。

 たぶん、きっと同じものだった。


 END.


 こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16818093076457598546)の二人。

 二人の学校は、ミッションスクールなので、さらっと聖書のお話が出て来ます。

 次回は5/9更新になります!

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