第259話 妄想ラバーラバー(男子中学生たち)

「きゅうけーい」

 河原でサッカーをしていた少年たちが、その一言で、ボールから鞄置き場へと足の向きを変える。

「……何やってんだお前」

 じっ……と真剣な眼差しで河原の上、遊歩道の方を見やる友人に声をかけた。

「さっきもずっとそうやってたよな」

「しっ、静かに。……俺は今、真剣なんだ」

「いや、だから何に」

「今、あそこに透ちゃんを召喚してるだ」

「……は?」

「透ちゃんがあそこで、俺を応援してくれてるんだ」

「透ちゃんって、お前が好きな二次元アイドルだよな?」

「いかにも」

「え、大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない。ちゃんと妄想だってわかってる」

「それは良かった。……いや、良かったのか?」

「こうやって、じっと一点を見つめて、彼女がこちらを見ているところを想像する。……すると」

「すると?」

「彼女が現れる」

「……はあ」

「騙されたと思ってやってみろ。お前の大好きなつぐちゃんがそこにいるって、そしてお前を応援してくれてるって、力の限り想像してみろ」

「……」

「……」

「…………」

「……」

「………………!!」

「……どうだ」

「み、見えた……」

「一回で物にするとは、お前はなかなか筋が良い」

「おお……これは……がんばれる……」

「だろ」

「つぐちゃん……」

「透ちゃん……」



「……あれ、大丈夫なん?」

「妄想ってわかってるうちはヘーキヘーキ」

「俺もやってるし」

「僕もやるなあ」

「……妄想応援彼女って、そこまで一般的なん……?」


 夕焼け色をバックに、彼らの彼女が今日も可愛く笑っている。


 END.


 教え子に教えてもらった楽しく体育をこなす方法。

 しんどければしんどいほどはっきり見えるらしい。

 昨日(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139556345699933)の河原。

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