第216話 甘い笑顔(いいことの連鎖)

 それは、密色に輝く金塊のべ棒にも見えた。

 キラキラと電灯の光を反射して輝く。

 そっと爪楊枝を刺す。

 パキンッ……

 表面が、薄氷のように割れる。

 ドキドキしながら、その小さな金塊を──大学芋を持ち上げ、口にする。

 暴力的な甘みのあとに、ほっくりと素朴なさつま芋の甘みが追いかけて来る。

 二つが口の中で合流して……とにもかくにも、

「美味しい……!」

 そう、美味。

 唸ってしまうくらいに美味。

 大学芋は大好物で色んな店のを食べ比べて来たけれど、ここは今までの何処よりも美味しい。

 良いお店に出会った。

 高架下に新しく出来たこの店は、小さな店だけれど、清潔で居心地が好い。

「今日も運が良い……」

 今日は、お気に入りのショップに行った。

 そこの服が好きというのもあるけれど、どっちかというと店員さんが目当てだ。

 目黒さんというそのお姉さんに接客してもらうと、絶対にいいことがある。

 前はバイトが決まった。その前は、ずっと探していた本が見付かった。

 そして今日、「大学芋食べたいなー」と思ったら、目の前にこの店があった。

「すごいな……目黒さん」

 私も、そういう人になってみたいな、なんて思いながら、また一口食べる。

「ん~……!」

 美味しい。

 しつこすぎず。でも、物足りなくもない。

 はちみつの味だけでは無く、ちゃんとお芋さんの味もする。

 最高。

「はー……」

 美味しい。

 ここは、常連になっちゃうしか無いな。


 *


「あ、またあのお客さんですね」

「本当だ」

 週一くらいで来てくれる女の子。

 いつも窓際で、にこにこ美味しそうに食べてくれる。

「あの人が来ると、お客さんが増えるから嬉しいですよね」

 アルバイトの山本さんが、こそっと私に言う。

 そうこうしているあいだにも、新しいお客さんがお店に入って来る。

「あの笑顔のお蔭かもね」

 きっと、そう。

 窓の向こうにあんなに美味しそうな笑顔があったら。

 入ってみたくなっちゃうものね。

「ああいう人、いいね」

「そうですね」

 たくさんの人に、あの笑顔になってもらいたい。

 だから今日も、美味しく大学芋を作り続けるのだ。


 END.


 目黒さんは、こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927863030938744)のお姉さん。

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