第99話 送るのは二番目のリクエスト(推しアイドルグループが解散するファン)


『解散する前に! 皆さんのリクエスト受け付けます♡ メンバーへのメッセージもどしどし送って下さいね!』


「……」

 FCサイトのリクエスト欄。

 私は、ぼんやりと光るそこに、思いのまま文字を打ち込む。


(だ、い、す、き、で、す。い、ま、ま、で、ほ、ん、と、うに)


 ありがとう。皆さんがいてくれたから、ここまで来られました。


(リクエストは……)


 ──解散しないで。


「……」


 指が、勝手にすいすい動く。


 ──ずっと、ずっとグループでいて。そのままでいて。


 ──どうか、お願い。


 どうか……──


「……」


 ため息を吐いて、指を止めた。

 ダメだ、こんなのは。

 あの人達は、前へ進もうとしている。

 自分たちの目指すべき道へ。

 だから。

 こんなのはダメ。


 ──解散しな


 ──解


 ──


 ──リクエストは、


「……」


 ──久しぶりに、無理難題ミッションをこなす皆さんが見たいです。


「ライブ、楽しみにしていま、す、ね、と」


 送信。


 ぼんやり光る画面を見ながら、


「やめないで」


 私は、一人零してそっと泣いた。

 今だけ。この瞬間だけ。

 次の瞬間には、あの人達が望む『笑顔のファン』でいよう。

 たくさんくれた笑顔と倖せの数より多く。

 私は、あの人達に報いたい。

「よしっ」

 気を取り直して、新曲をかけた。

 ラストライブまでに覚えなくては。

 きっと、笑顔で見送れるように。

 私は、前を向いてボリュームを上げた。


 END.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る