第100話 BSSは絶対御免(百合。幼馴染オタク同士)


 幼馴染が、家に遊びに来た。

 お互いにオタクなので、近況報告は仕事よりもオタ活について。

 主に推しとか推しとか、推しについてだ。

 一人暮らしだと、こういうとき誰憚ることなくキャッキャッと騒げるのがいい。

 宴もたけなわ、お互いにおススメの薄い本を交換したときだった。

 そういえば、と彼女が言い出したのだ。

「コスプレしてる時に告られたんだけどさ」

「え、ごっこ遊び的なのでなく?」

「ガチもんを」

「ちなみに、何のコスプレで、お相手は?」

 彼女がしていたのは、有名な擬人化ゲームのキャラクターで、執事然としているけれど胸に秘める熱い想いがたまらない男キャラ。お相手は、そのゲームのプレイヤーキャラだそうだ。ちなみに、お相手も女性。

「へえぇえぇ」

「この場合、私を好きになったのか、私がコスしてるキャラに恋した延長線上なのか迷うよね」

「そらまあ、ね」

 プレイヤーキャラのことを、その執事っぽい男キャラはとても慕っており、そんな彼のことをプレイヤーもまた好ましく頼りにしている……みたいな関係性だから余計にだろう。

「で、アンタはどう思ったの」

「コスしてる私は『喜んで』って感じだったんだけど、衣装を脱ぐと迷っちゃってね」

「役者さんみたいだねぇ」

 本当にキャラになりきっていたわけだ。

 ……ふむ。

 私は、顎に手を添え、暫し考えた。

 その男キャラになりきっているときは『喜んで』。

 でも素に戻ったら『迷う』。

 ……今が、決戦の時だ。

「私はさ」

「うん」

「コスしてるアンタも好きだけど、そのままのアンタが一番好きだよ?」

 私は、真っ直ぐに彼女の眼を見て言った。

 彼女は数秒固まったあと、

「……くどいてるみたいだね」

 少しだけぎこちなくそう言った。頬が、心なしか朱い。

 私は、にんまり微笑んだ。

「みたいじゃなくて、くどいてるんだけど?」

「え」

 手を伸ばして、その熱い頬に触れた。

 彼女は恰好良いけれど、押しに弱いところがある。

「『僕が先に好きだったのに』みたいな状況になるのは嫌だからね」

 だから、そこを利用する。

 どこの馬の骨とも知らぬ女に同じことをされるより先に。

「とりあえず、こっちを優先して考えてみない?」

「ぜ、善処シマス」

 顔を寄せれば、戸惑いつつも肯く。

 そんな彼女が可愛くて仕方なくて、私は笑いながらぎゅーっと彼女を抱き締めた。


 END.

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