第77話 ガチャにはお供え物が効く(個人差があります)(女子高生わちゃわちゃ。文芸部員)


 夏休み。八月に入ったばかり。九月の文化祭のため、寮にはまだまだ帰省していない連中の方が多い。

 前期の〆切を越え、印刷・製本も乗り越えた。今は、束の間のひと休み期間。

 部室では、宿題をする者、ゲームをする者、読書をする者など、それぞれが自由に過ごしている。

 そんなある日の遅い朝。

「ぐぬぬ……来ない……」

「どした、かおる?」

 自分のスマホに向かい唸り声を上げる後輩に、僕を心配になって声をかけた。

「千代金丸が……来ません……」

「ああ、刀のゲームか……」

「刀は天井ないんだっけ?」

 彩が問うた。彼女は、このゲームをしていない。

「この場合は無いですね……」

「つらみの極み」

「ぐっ……資材も底をつきかけてるのにっ」

「今回のはお千代ちゃん居た方が楽だからなぁ」

 あおが、のんびりと言った。

 藍のスマホ画面も、同じく刀のやつだ。こちらには、きちんと青髪の青年が映っていた。

「いる人はいいなぁ」

「殿ちょは居ないの?」

「居ないねぇ。来たらいいなあ程度で回してはいるけど、深追いはしてない」

「持っている人も、自分のペースで楽しめる人も羨ましい……己の煩悩が憎い……」

 郁が、机に突っ伏しながら呻いた。

 その姿があまりに可哀想なので、つい、

「あー、じゃああれやれば? お供え物」

 口を出してしまった。

「おそなえ……?」

「僕も四年前、漱石先生をお迎えするために羊羹とおしるこ缶を供え続けた」

 錬金術的なあれそれで文豪をお呼びするゲームで、中学の時からハマっている。

「あったな。そのお蔭でお前さん、一時期先輩たちから羊羹とおしるこを大量に貰ってたよな」

「好き認定されてたよね。私も好物なのかと思ってたよ」

「それで、来たんですか?」

「来た。更におしるこサンドも増やしてお供えして潜書させたら来た」

「マジか!!」

 まあ、一ヶ月くらい続けた先の話なのでアレなのだが。

「お千代ちゃんは沖縄刀だから、沖縄のもの?」

「今からデレステやるから『いとしーさー♡』MV流しとこうか?」

 怜が、アプリを起動しながら問う。

「じゃ、ワシ今から自販機行くから、シークヮーサーサイダー買って来てやるよ」

 藍が、財布片手に立ち上がった。

「も少し時間くれれば、駅前のスーパー行って、サーターアンダギーでも買ってくるべ。今から僕と彩、駅前行くからさ」

 僕が言って、彩もうなずく。

「み、みんな……!」

 郁が、感動に打ち震えた。

 これら提案ののち、とりあえず今は『いとしーさー♡』MVで一度回し、二時間後にシークヮーサーサイダーとサーターアンダギー、『いとしーさー♡』MV三段重ねで回すことになった。

「俺、がんばりまっす!!」

 郁の瞳がキラキラと輝いている。

 ああ。助け合いは、善きかな善きかな。




 ……結果。

 郁のもとに、千代金丸は来なかった。

 来なかったけれど、寮全体が沖縄モードになった。

 自分たちでゴーヤチャンプルーやソーメンチャンプルーを作り、サーターアンダギー、ちんすこう、紅芋タルト(ぜんぶスーパーに売っていた)をデザートに、シークヮーサーサイダーで乾杯をした。

 なかなか、沖縄祭りは盛り上がった。

 なんくるないさー、いつかくるさー。

 郁も、無我の境地に行けたようだった。


 夏は、まだまだこれからだ。


 END.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る