第78話 話を聞かせて?(ロマンシス)


「刀剣男士が現実にいればいいのに……」

「どうした? 夢女子発言か?」

 唐突な彼女の呟きに、私は本から顔を上げた。

「夢女子かどうかわからないけど……だって、刀剣男士はさぁ、わたしを慕ってくれるじゃん」

「まあそりゃ、刀だからね」

 彼女の言う刀剣男士とは、刀を擬人化したゲームのキャラクターだ。

 私はぬるぬるユーザーだから、恒常キャラクターを知っている程度だけども。

「何があっても私の味方をしてくれる存在が居るって……いいなあって思って」

 彼女は、スマホを覗きながら言う。

「もちろん、私が悪いことをしたら叱るだろうけど……それでも多分、ちゃんと『叱る』なんだろうなあって気がするじゃん」

「ふむ」

「それで、私が『嫌だな』『辛いな』ってことがあったり、言われたりしたら、怒ってくれそうじゃん」

「ああ……めちゃくちゃ怒りそうだよね」

 長谷部とか、加州とか特に……。

 私が言うと、でしょ? と彼女が嬉しそうにうなずいた。

「それっていいなあって思って」

 彼女は、膝を抱える。

「一番の味方だって感じするじゃん」

 膝を抱えて、自分を守るようにして、スマホを見つめた。

「ずっとずっと家でも職場でも何処でも一緒で、変わらず味方でいてくれるなんて……いいなあ」

 彼女の呟きは、真に迫っていた。

 冗談らしい話なのに、冗談めかしたところは何処にも無かった。

 彼女の家のことを知っていれば、さもありなんだろうけど。

「……私は、刀剣男士みたいにはいかないけどさ?」

 私は言った。

「いつでも、話は聞くよ? 聞くだけで、何かアドバイスも意見も言わないけどさ?」

 これは、私の信条だ。

 何も言わない。聞くだけ。

 人は正直、それでいいって思っている。

 他人も、自分も。

「……ありがと」

 彼女が、やっと微笑んだ。

「それがいい。それが、とても嬉しいっていつも思う」

 彼女の笑顔を見て、私も笑う。

「いつも、ありがとうね」

「どういたしまして」

 彼女こそ、私の話をいつも聞いてくれる。

 だから、これがいい。これでいい。

 私たちの笑顔が、願わくば長く続きますように。

 私は祈りつつ、自分の頭を彼女の頭にこつんと合わせた。


 END.

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