第59話 真夜中のおいしいごはん(薔薇。菓子職人×塾講師)


※第9話『スキンシップ過多』(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816452220547678333)のトーリー(菓子職人)×颯太(塾講師)の二人のお話ですが、こちら単体でも読めます。


「おいしいですか?」

「美味しいです!」

 颯太そうたさんが、嬉しそうに里芋の煮っ転がしを口に入れながら微笑んだ。

「ん~~~~~……っ」

 里芋を食べるたび、倖せそうに唸る彼が可愛くて、私はにこにこしてしまう。

「味がよく染みてて美味しい……」

「よかったです」

「トーリーさんは、お菓子だけじゃなくて、和食も得意なんですね」

「はい。和食はおばあちゃんに、おかしはグランマにおそわりました」

 塾講師の颯太さんは、夜が遅い。だからいつもは、スコーンとポタージュスープとか、サラダとパン(スコーンとパンは、うちの店の残りだ)で済ませることが多かった。

 けれど、たまには和食でしっかりお夕飯を食べるのもいいのではないかと思って作ってみたところ、思った以上に好評で嬉しい。

 もちろん、量は少なめにしてあるし、煮っ転がし以外は冷奴とわかめのお味噌汁で、胃に優しいものにしてある。

「どちらも、私にとってだいじな、だいじなふるさとの味です」

 大好きな祖母たち。

 おばあちゃんにも、グランマにも、もう会えない。この世界ではもう二度と。

 けれど、味を通して、彼女たちとお話は出来る。

「……トーリーさんの大事な味。僕も、とてもとても、大好きです」

 颯太さんが、はにかんで言った。

 私の心に、倖せが灯る。

「──うれしい」

 彼女たちの味が、私の好きな人をも倖せにする。

 こうして『好き』が繋がっていくことの、何と倖せなことか。

「おかわりもありますけど、夜おそいですから、あしたのあさ、またたくさんたべてください」

「喜んで!」

 颯太さんが、お味噌汁を啜り、また心の底から嬉しそうな顔で笑ってくれた。


 END.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る