第58話 事実は小説より奇なり(あげ☆ぱんつ先生と追っかけについて第三者視点から見る百合未満の話)

 ※第29話 君の名は(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816452220969270553)の二人についてのその後を第三者視点でちょろっと。こちらを読んでなくても大丈夫です。


「ううううーん……」

「どうしたの、如月」

「あ、副長」

 メモ帳とにらめっこしていた如月が顔を上げた。

 ここは、笹百合女学院文芸部部室。

 今日は活動日ではないが、〆切一週間前、自室や教室だと思うように集中してネタ出しが出来ない部員が、ここで一生懸命ネタを考えることはよくある。

「ねえ副長~~~。この案件、やっぱりそのまま話にしちゃ駄目ぇ?」

 如月が一枚の紙をぴら、と振った。

「ダーメ。ダメに決まってるでしょ。何の為の規約だと思ってんの」

「だぁってぇ……」

 如月が持っていた紙を奪って、副長こと副部長・林は、厳しい声で問う。

「私たちが『相談』を受けるときの報酬は?」

「……相談の内容を小説のネタにしてもいいということ……」

「その際の注意点は?」

「個人が特定されないよう、改変に改変を重ねること……」

「わかってるなら、そのまま書いていいとか、幹部の身で言っちゃダメでしょーが」

 如月は、文芸部の会計を担当している。

 ちなみに、文芸部は創作の傍ら、持ち回りで生徒たちの悩みを聞く『相談屋』も行っている。

 報酬は、相談内容を小説のネタにしてもいいという許可。

 もちろん先ほど言った通り、その場合は改変に改変を重ね、相談者の身バレを防ぐ。

 主に性別を変えたり、時代を変えたり、職業を変えたり……まあ、色々だ。

 そして相談者・本人にも確認してもらう。

 割と好評で、相談日には行列が出来ることもあった。

 これは笹百合女学院文芸部のオリジナルではなく、姉妹関係を結んでいる別の学校の文芸部がしていたことを真似して今に至るという。

「でもでもだってぇ」

 如月が、唇を尖らせた。

「現実が面白すぎるもん……自分のファンと図書室で偶然同じ本を手に取ろうとして知り合う漫研部員とか、少女漫画じゃん……」

 しかもだよ? と如月は、拳を握る。

「その本が『初心者でも簡単! リンボーダンス入門』だよ!? こんなん、面白すぎて『設定盛り過ぎやろ』って言われるやつじゃん!」

「よく言うでしょ、事実は小説より奇なりって」

「こんなの脚色したら逆につまんなくなるやつだよ、勿体ないよぉ」

「あのねぇ」

 林が、ため息を吐いた。

「ありのままを書いたっていう自然主義文学だって、本当にそのままを書いてたわけじゃないんだからね? 多少脚色を加えたり、省いたり、時系列を少し変えたり、読みやすいように作ってるんだよ?」

「だから……?」

「さっき、自分でも言ってたよ、『こんなん、面白すぎて設定盛り過ぎやろって言われる』って」

「あ……」

「なら、そう言われないよう、かつ、この話の面白さを消さずに小説らしく味付けしなきゃでしょ。何より」

 ぺそ

 軽くそっと、紙で如月の頭を叩く。

「相談者の個人情報はしっかり守らなきゃ。規約のこともあるけど、せっかく相談してくれた人を、むげにしたかないじゃない?」

 それに、と林が付け加えた。

「ちゃんとこっちが規約守らないと、今後一切、誰も相談しに来てくれなくなるよ」

「ううう……目先の利益に囚われてどえらい間違いを犯すところだったよ……」

「わかればよろしい」

「どうにかがんばって料理するかぁ……」

 またメモ帳とにらめっこし始めた如月に、安堵のため息を吐いてから。

「そういえば、この漫研部の人は、お話だけ? それともアドバイス込み?」

 ふと気になって如月に問うた。相談者の担当者が、如月だったので。

「お話だけー。慕ってくれる後輩に対しての感情が分からない。分からないから、分かりたい。けど、どうしたらいいものかっていうぐるぐるを、誰かに聞いてもらいたかったみたい」

「なるほど」

「あ、でも一点、『友人にも相談すべきだろうか』って聞かれたから、『何の偏見も歪みも無くあなたを見てくれる、信頼出来るご友人になら言った方がもっと楽になれるかも』とは答えたよ」

「ふむ」

 林は頷くと、また紙に視線を落とした。

「……自分の気持ちって、難しいね」

「ね。他人のより難しかったりしてね」

 如月は、その自分の言葉に何か閃いたのか、メモ帳に早速文章を綴り始めた。


 END.

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