第30話
いつになく落ち着き払ったような様子で、話を続けるセルヴィス。
「理性ではアメリアを大切にしなくてはと思っているのに、全く私の心は思い通りには動かなかった。近くにいればいるほど、彼女を傷つけてしまうだけなのは解っていた。だが、なぜか手放しがたいような気もして、長々と縛り付けてしまった・・・。
しかし、いい加減にもう彼女を自由にしなくてはなるまい。だから、今日は彼女の新しい嫁ぎ先を相談するために、お前をここへ呼んだのだ」
それを聞いたナーヴェの纏う空気が変わった。
「本当にあなたは勝手な人だ、兄上・・・。今まで黙っていましたが、彼女は・・・私の唯一なのです!それでも、彼女があなたを望むから、私は引いたというのに・・・。いつだって、自分の事ばかりで、一体どこまで彼女を踏み躙れば気が済むのですか?」
セルヴィスは一瞬目を見開いた後、俯きながら言った。
「そうか・・・本当にすまなかった。謝って済むような事では・・・無いな。彼女がお前の唯一だったなんて・・・。私は何も知らず、知ろうともせず、本当に愚かだったんだな・・・。アメリアは、必ずお前に嫁がせると約束しよう」
ナーヴェは溜息をついて言う。
「だから、兄上は何も解っていないのです。彼女が私を望んでくれれば、それは私にとって何より嬉しい事です。
しかし、彼女はまだ兄上の事を愛しているのですよ?兄上が誰も愛せないからと言って、無理に私へ嫁がせるなど、そんな事は認められません・・・。
私は彼女の望みを何よりも叶えると約束したのです。だから、私は兄上との仲を取り持つしか・・・」
そこにセルヴィスが割り込むように、一言発した。
「私はもう長くない」
「え・・・」
「やはり過ぎた薬は毒だったのだ。あの度を越した量の薬は、感情に決定的な損傷を与える以外にも、私の身体を隅々まで徐々時間をかけて蝕んでいった。外側からは分からないだろうが、私の臓器の殆どはもうまともに機能していない状態だ・・・。人前に出る時は、不審に思われない程度に魔術強化で誤魔化しているが、それもいつまで続けられるか判らない。
だから、これからはお前が私の代わりに彼女を愛して幸せにしてほしい。同じ容姿を持つお前にしか頼めない・・・どこまで自分勝手なのかとは思うが、最期の頼みだ。私のためでは無く、彼女のために・・・頼む」
「それは・・・私にあなたに成り代われというのですか?」
ナーヴェはしばらく押し黙ったように間を置いた後、決心したように口を開いた。
「・・・いいでしょう」
愛する人の傍にいることがようやく叶うというのに、その人から同じ顔の男の名で呼ばれ、たとえ愛されたとしても、微笑みを向けられたとしても、それは自分の向こう側にいる他の男に向けられたものでしか無い。
にも関わらず、自分はその男を生涯演じ続けなくてはならないという懊悩を思うと、それは何という名の地獄なのだろう、とナーヴェは思った。
だが、彼女のためなら、自分の思いなど押し殺してでも、最後まで完璧に演じ切って見せる、そう心に決めた。
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