第16話
もし、セルヴィス様が今でもあの方を思っているのだとしたら、私の努力なんて何の意味もないのもしれない。
アメリアは、どんなに難しいことだとしても、努力さえ重ねれば、何だってきっと出来るはずだと考えていた浅慮な自分を恥じた。
そんな考えでも、今まで生き続けることが出来た自分は、なんと恵まれていたのだろうと思った。
この世界には、自力だけではどんなに足掻こうと、どうにもならない事があるのだと初めて知った。
亡くなった方には勝てそうにない。
自分は彼にとって、好き嫌いの対象ですらないのだ。
きっと、部屋の壁紙と同化して、いつ別のものに変わっても気が付かないような調度品くらいの価値しかないのだろう、とアメリアは思った。
それでも、もしそれが壊れたり無くなったりしたら、彼は少しだけでも心を痛めてくれたりするのだろうか・・・。
◇
二人の関係は、結婚式の日から一歩の進歩も後退もないままだった。
いつからか、跡継ぎはまだか、という声が何処へ行っても聞こえてくるようになった。
それは、婚姻を結んでから、短くはない日々が過ぎた二人に求められるであろう当然の流れだった。
その度に、アメリアは『授かりものだから』と曖昧に笑って誤魔化したが、内心は荒れ狂う波のようだった。
自力だけでは、どうにも出来ないことに対する焦りが募った。
なぜ、一人では出来ない事なのに、自分ばかりが問い詰められなければならないのだろう、そう思うとアメリアは悲しかった。
恥を忍んで自分からセルヴィスに手を出そうとした事もあったが、冷たく拒絶され、その時は自身の人間性すら否定されたような気さえした。
これ以上自分にどうしろというのだ、自分はこれ以上出来ないほど努力をしているのに・・・。
疲れ切った彼女には善意の言葉すら、どこかに毒を含んでいるように感じられて、誰かと会話をする事そのものが恐ろしくて億劫に感じられた。
もし、自分が男で、彼が女であったとしたら、倫理はさて置き、無理にでも事を為すことができたのだろうか。
だが、そこまでする事に何の意味があるのだろうか。
何が正しい答えなのか、もうアメリアには分からなかった。
期待に応えることが出来ないのは、セルヴィスが取り合ってくれないからなのだと、大きな声で叫んでしまいたかった。
そうすれば、少しは気持ちが晴れるかもしれない。
しかし、そんなことをすれば彼に恥をかかせてしまうだろう。
弱みを見せるのを極端に嫌う彼にとって、それは耐え難いことに違いない。
どんなに傷つこうが、自分さえ我慢すれば丸く収まるのだ。
それなら、自分が彼の盾になれば良い。
彼を守らなくては・・・。
アメリアはそう思って、自身の本当の気持ちからは目を逸らした。
それは直視してしまったら、もう自分を保っていることすら危うい、と感じるような極限に立たされている己の心境に対しての、無意識な自己防衛的な反応からだった。
絶え間ない痛みに耐え続けた彼女は、心が血を流していても、もう痛みを感じることすら出来ないほどに疲弊しきっていた。
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