第15話 セルヴィスの胸中


 弟のナーヴェから、手紙が届いた。


 話がしたいので近々時間を取ってほしいという内容だった。


 ちょうど、私も弟と話をしなくては、と考えていたので渡りに船だった。


 本当はもっとずっと早くに話をするべきだったが、私が優柔不断だった為に、ずいぶん遅くなってしまった。


 特に、アメリアには悪いことをした。


 弟にも心配を掛けた・・・。


 無意識に黒ずんだ胸の痣に手をやった。


 ◇


 私はレクシアのことを愛していた。


 それが彼女が使った魅了魔術によるものだったのか、魂からの渇望だったのか、あるいは若さによる欲の衝動からだったのかは、今となっては自分にも判らない。


 だが、あの瞬間、私にとって彼女が全てだと感じたのも、一つの事実だった。


 レクシアが偽の番だと暴き出され、処刑され、彼女を失った私は慟哭の中に落ちた。



 私は、彼女のことを「偽物」だと指摘した宰相を恨んだ。


 彼女がした事は罪で、彼女は死ななくてはならないと明確に示す法にすら怒りを覚えた。



 他人や法の価値観で測れば、彼女は絶対的な「悪」で咎人なのだろう。


 だが、私個人にとっては、彼女はたった一つの救いで、決して罪でも悪でもなかった。


 偽りだとしても、彼女が傍に居てくれることが、ただ嬉しくてたまらなかった。


 むしろ、薄々『番』ではないと気付いてすらいた。


 それでも、レクシアは冷たかった私の心に初めて明かりを灯し、温めてくれた、誰にも代えがたい女性だった。


 ただ、私が彼女を求めすぎて溺れてしまった。


 公務を放り出してまで、彼女を求めてしまったのは悪手だった。


 それが隙となったせいで、彼女は断罪されてしまったのだ。


 私が節度を守ってさえいれば、きっと彼女はまだ・・・。


 彼女が責め殺されたのは、私が原因だ。


 私が直接手を下したわけではなかったが、私が殺したも同然だった。



 にも関わらず、それはもう過去の事なのだと、どこか割り切ってしまっている自分が居る。


 レクシアのことは愛していたが、それはかつてのことだった。


 過去を振り返ってみるが、どこか他人の古い日記でも読んでいるような、実感の伴わないちぐはぐさを感じる。


 その一方で、『彼女はお前のために死んだのに、それを忘れるなんて許されない』と責めるような自分の声も聞こえる。


 だが、今の私はレクシアに対する未練など、白けるほど何一つも感じられなかった。


 客観的に考えると、薄情以外の何ものでもないが、これも私が衝動的に行った事への代償かと思うと受け入れるしかなかった。


 私は人が持っていて当たり前のものを永遠に失ったのだ。


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