第14話 ナーヴェの胸中


 エルランド国王である兄セルヴィスの弟である私は、跡目争いの煩わしさから逃れるため、兄の即位と同時に臣下となり公爵位を賜った。


 私はこの国の外交を任されており、一年の半分以上は他国で過ごすような日々を送っている。


 兄上が婚姻を結んでからというもの、周囲から聞こえてくる『早く身を固めろ』という声が、いよいよ煩わしくなってきたが、私には間に合わせの相手など必要ない。


 元より、『唯一の望み』が叶わないのであれば、生涯独りで過ごすという覚悟も決めている。


 家を継ぐものが必要だというのならば、養子でも構わないと私自身が思っているのだから、放っておいてほしいと思う。


 ◇



 兄上が番であるはずの義姉上と、何故か距離をとろうとする理由が、以前から理解できなかった。


 二人の周りの者たちは、彼らを「仲睦まじい」と評したが、私の眼には全くそうは見えなかった。


 彼女の縋るような視線に対して、どこも見ていない兄上。


 二人の感情の温度差に、見ているこちらの方が胸が詰まるような気さえしていた。


 兄上はまさか、まだあの女に未練があるというのだろうか・・・。



 ◇



 義姉上の異変に気付いたのは、条約に関する長期会議が終わり隣国から帰ってきて、すぐのことだった。


 枯れ木のようにやせ細った身体に、笑顔の仮面を貼り付けて気丈に振る舞う彼女を見た。


 笑っているにも関わらず、今にも泣き出しそうな顔に見えた。


 どうして誰もおかしい事に気が付かないのだろうか?


 どう見たって異常だ。


 兄上は何をしている?


 余りの事態に、私から義姉上に直接声を掛けようかと思ったが、立場上憚られた。


 義姉上に妙な噂が立つような事はできない。



 私は兄上と早急に話をしなくてはならないと感じた。


 すぐにでも会って話をと思い、今から時間を取ることができないか打診した。


 しかし、今晩は重要な神事に関する打合せがあるらしく、どうしても時間が取れないとの事だった。


 私もまた明日の朝一番に、別の外交案件のためにエルランドを出立しなくてはならない。



 時間が経つほど、事態が悪化していくような不吉な予感めいたものを感じ、落ち着かなかったが、今はどうすることもできない。

 次に帰ってきたら、話をする為の時間を取ってほしいという趣旨の手紙を書き、兄上に届けさせた。

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