第13話 アメリアの胸中


 黒い痣の情報はなかなか見つからなかった。


 やはり噂で聞いた、あの方の魅了が消えずに残っているからなのかしら?


 セルヴィス様の番を騙り、処刑されて亡くなったという、あの方。


 美しく知的で魅力的な女性だったという。


 彼女を失ったセルヴィス様は、随分荒れていたとも聞いた。


 当時、幼かった私はほとんどその事件のことを覚えてはいなかったし、箝口令も布かれていて、今となっては詳細まではわからない。


 けれど、経緯はどうあれ、セルヴィス様があの方を愛していたという事は真実だと感じた。


 今までずっと、彼が私に気持ちを向けてくれない事はとても辛いと思っていたし、今だってそう思っている。


 しかし、愛している人の命を、直接では無いにしても自分の手で奪わなくてはならないような、残酷なことがあったにも関わらず、何も無かったようなふりをして生きなくてはならない彼の立場を思うと、やり切れないとも思った。



 まだ魅了魔術が消えていないのかどうかということは、問題の本質ではなかった。


 きっと、あの黒い痣は今でも彼が彼女のことを愛していて、忘れることなど到底できないという印なのだ。


 彼女でなくては、彼を満たすことはできない。


 対になる痣を持っているだけの番など、彼にとっては初めから不要だったのだ。


 だから、あの痣は私の全てを拒絶するような黒であり続けるに違いない。


 まるで彼の心を代弁しているように。


 私は彼のことが少しだけ解って嬉しいような気もしたが、同時に解らなければ良かったとも思った。



 あんな人など好きにならなければ良かった。


 会わなければよかった。


 そもそもこんな痣など無ければ・・・。


 そうすれば、こんなやり場のないような苦しい気持ちになることなど無かったというのに。



 そう思う気持ちとは裏腹に、もしかしたら、まだ私が愛される可能性は少しくらいはあるのではないかという、根拠のない浅ましい期待も消し去ることができない。


 我ながら、哀れな女だと思う。


 あれだけ何度も明確に、私に気持ちが無いことは思い知らされているというのに。


 いい加減どこまでも諦めが悪い自分に嫌気がさす。



 いつのまにか、生きている事にすら疲れてしまった。


 客観的に見れば馬鹿馬鹿しいことこの上ないような、空想めいた期待だけが、今の私を生きながらえさせている、たった一つの貧弱な錨だった。


 多分、この思いすら無くしてしまったら、ここに留まっている事すらできそうにない。


 私の全ては、嵐の晩に外に出された蝋燭の火のように、簡単に消えてしまうだろう。


 そんな気がした。

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