第12話


 信じられないものを目にしたアメリアは、混乱していた。


 はじめて見たセルヴィスの痣。



 番の痣が『黒』などという話は、神殿の説明でも聞いたことがなかった。


 セルヴィスは王族だから特別で、一般の概念とは異なる存在だからなのだろうか。


 否、そうではないとアメリアは直感的に感じた。


 あの痣は初めから黒かったというよりも、元々赤だったものが何らかの理由で変質し黒くなってしまった、と表現するほうが適切に思えるような様子だった。


 自らの赤い痣からも感じられる、ある種の光のようなものが、あの黒い痣からは一切感じられなかった。

 生命力が枯渇してしまっているような印象さえ受けた。



 思い返せば、セルヴィスは他人に身体を見せるのを極端に嫌っていた。


 国王であるにも関わらず、他人に一切自身の世話することを許さなかった。


 アメリアは今までそのことを、ただセルヴィスが度を越して繊細なのだろうと考えていたが、もしかすると根本的な考えそのものが間違っていたのではないだろうかと思い至った。



 もし、あの黒い痣を誰にも見られたく無かったのだとしたら?


 理由は分からないが、多分セルヴィスのあの痣の事は誰にも知られてはならないのだ、アメリアはそんな気がした。


 自分に目を向けてくれないのも、それが理由だったのだろうか?


 痣は元に戻るのだろうか?


 そうすれば、今度こそ私のことを・・・。


 セルヴィスのことを第一に考えるべき時にも関わらず、気が付くと、すぐに『自分が愛される為にはどうすれば良いのか』という事ばかり考えてしまう自分自身の身勝手さに、アメリアは辟易した。



 彼女はこの不安な気持ちを、誰かに聴いてほしくて仕方がなかった。

 しかし、誰にも話すことは出来ないし、話してはならないとすぐに思い直した。


 彼があれだけ必死に隠そうとしているものを、自分の一存で勝手に誰かに打ち明けるわけにはいかない。


 かと言って、セルヴィス本人に理由を問いただす事もできそうにない。


 アメリアは誰にも知られないように、黒い痣について調べることにした。

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