第11話
今日は定期的に行われている、庭園での茶会の日だった。
侍女や護衛達は控えているものの、好きな人と二人だけで過ごすことができる、ゆったりとした時間は、アメリアが渇望しているものだった。
しかしながら、この茶会はそんなものとは程遠かった。
実際はどう贔屓目に見たとしても、セルヴィスと相愛だとは言えそうになく、『仲睦まじい国王とその后』を周囲にアピールするためのポーズでしかないのだ、そうアメリアは感じていた。
私は道具でも構わないわ・・・
あなたが他人に見せつける為の道具としてのみ必要だから近くに置いておくというのならば、それでも・・・
いつものように公の笑顔を浮かべているセルヴィス。
彼は着席する前にアメリアの方を一瞥した。
彼女は一瞬躊躇いを感じながらも期待したが、やはりすぐに裏切られた。
それは彼女が望むような暖かなまなざしとは、正反対の冷たいものだった。
彼はやせ細って似合わない化粧を施している彼女を見た瞬間、嫌悪感を露わにするように顔を歪めたのだった。
それは注視していなければ誰にも判らないほど、本当に僅かな時間の出来事だった。
そんな事など何もなかったように、すぐにセルヴィスは微笑みをその顔に貼り付けたが、アメリアには彼が垣間見せた否定的な表情が忘れられなかった。
本来であれば、彼と二人で過ごす時間は好ましく喜ばしいものであったはずだったが、先ほどの表情から、彼がどれだけこの茶会を不愉快に感じているかが言葉よりも強く伝わってきた。
アメリアは、貴重な彼の時間をただ無駄にしているだけなのではないか、という不安と罪悪感さえ感じた。
針の筵のようなこの場から、一刻も早く立ち去りたいと彼女は思った。
茶会の間中、セルヴィスの顔はアメリアの方を向いているように見えたが、その瞳には彼女が座っているずっと後ろに咲く季節の花々だけが映っていた。
今日も彼の瞳はアメリアを映さない。
アメリアなんて、初めからそこには居なかったように。
仲の良い二人に心酔している、という若い侍女たちの密やかな会話が耳に入ると、アメリアは何だか自分が皆に嘘をついているような気がして、胸がズキリと痛むのだった。
◇
また月が昇る時間になった。
アメリアは今夜もいつもと同じように、なかなか寝付くことが出来なかったが、その横でセルヴィスは既に眠りについていた。
ただ一つ昨夜と違うのは、セルヴィスが酷く魘されているということだった。
アメリアは薄暗い中で、眠りながら苦しそうに唸っている彼に目をやった。
上掛けが落ちかけているのを直さなくては、と彼のほうに近づくと、夜着の襟元も乱れてしまっている事に気づいた。
このままでは、風邪をひいてしまうわ・・・
私に触れられたと知ったら、また嫌な顔をなさるかもしれないけれど、これは不可抗力のようなものなのだから許していただかなくては・・・
衣服を整えるために、そっと彼の胸元に手を伸ばした彼女の目に、全く想像すらしていなかったものが飛び込んできた。
彼の胸にある番の痣を見たアメリアは言葉を失った。
心臓のすぐ横にある番の痣は、赤いはずだった。
そんなこと有り得ないはずなのに・・・。
「どうして黒いの・・・」
セルヴィスの痣は、色を失くして精気が無くなった花のように真っ黒に染まっていた。
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