第10話


 アメリアは印象深い夢を見たような気がした。

 しかし、それがどんな内容だったのかは少しも思い出せなかった。


 今朝、目が覚めた瞬間は何となく気持ちが安らいだような気がしたが、それは気のせいだったようで、すぐにまたいつもの鬱屈としたやり場の無い気持ちが彼女を塗り潰したのだった。


 ◇


 私がもっと大人びていたら?


 もっと華奢で美しかったとしたら?


 そうしたら、セルヴィス様は愛してくださるかしら?


 私の悪いところを全て改善することができれば、何もかも上手くいくに違いないわ・・・。


 セルヴィス様もきっと私を求めてくださる・・・。



 アメリアは自分の足りないところ、至らないところを重箱の隅でも突くように探し続けるという、苦行のような終わりのない禅問答をいつからか繰り返し始めた。


 自分で始めたはずなのに、自分でも終わらせることのできない出口のない地獄の始まりだった。


 それは『年が離れている分、子供じみて見えるのがいけないのかもしれない』という考えに囚われ、元々の顔立ちにそぐわない厚化粧を施すことから始まった。


 しかし、生来の整った容貌が良くも悪くも作用してか、周囲の者たちは『彼女は普段と趣きが少し異なる化粧をしているのだ』としか思わず、彼女の心の箍が外れ始めたことに気付くものは誰一人居なかった。



 ◇


 アメリアは一般的に見て均整の取れた美しい体系だったが、自分が太っているからセルヴィスは嫌悪しているのかもしれないという考えに憑りつかれた。

 彼女は突然思いついたように、過度な食事制限をはじめた。


 長所だったはずの持ち前の完璧主義が悪く転んだ。


 彼女は侍女たちが制止するのも押し切って、食事を殆ど口にしなくなった。


 しなやかだった手足はみるみる枯れ木のようにやせ細って、落ちくぼんだ瞳だけが爛々と光りを放ち、それはさながら幽鬼のようだった。


 立っているとふらついたが、椅子を差し出されても、骨が直に座面に触れる痛みで座っていることすら辛く感じられた。


 真夏でも肌寒く感じるようになり、厚手の上着が手放せなくなった。



 これで少しは美しくなれたのかしら・・・


 何が正解で何が不正解なのかわからない。


 自らによって極限まで痛めつけられた身体は悲鳴をあげていたが、アメリアはもう自分ではそれを止められなくなっていた。

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