第2話 星海を護りしモノ、破滅を呼ぶモノ

 刻は隕石群落下よりも前に遡る…


 ……そこは宇宙、太陽系最外縁部エッジワースカイパーベルト領域


 主星たる太陽がはるか遠くにぼんやりと輝いている。彗星の巣と言われているオールト雲領域はさらに外側にあり、カイパーベルトは手を伸ばすかのようにそこまで続いている、その距離は冥王星軌道の倍ほどの位置にある。

 地球人類がいまだ到達していない未知の領域。かつて地球人類は幾度となくはるか遠い宇宙を目指し様々な無人探査機を打ち上げてきた。しかし…それらは、すべてが行方不明となっている……


 そのカイパーベルトの外側に、重力圏を無視して移動する物体が存在した。彗星や小惑星の類ではない、明らかに人工物、だが地球の探査機でもない。


 おおよそ知性ある者に形成されたと思われるその意匠は、ダガーナイフのような形をし、全体の様々場所に淡い光が明滅している。そして最後尾にはホタルのように一際明るい輝きがある、それは反動推進器の放つ光


宇宙船だ。地球人類が未到達のはずの星の海を進んでいた。


 宇宙船の正体は、外宇宙から太陽系に侵入する脅威の存在を監視・迎撃するために建造された戦闘艇


巡視打撃8号艇”ネメシス” 


ある組織に所属する船であり、船歴は1万年をはるかに超える。

は地球人類が文明を築くよりもはるか以前から存在し、太陽系を守る使命を与えられていた。


ネメシス船内


 灯りが暗く落とされた静かな指揮所に、短いブザーの警報が鳴る。

「警報」

「状況確認」


 それはオールト雲内を巡行している同胞の早期警戒無人巡視艇からの警戒信号だ


「間違いないか?」

「イービルと確認しました」


 が注視する存在、太陽系外より飛来する謎の侵入者…それは


『イービル』


 イービルもまた宇宙船のような姿をしている。だがイービルとは、意思疎通をかわすことができない、彼らが生命体なのか、何者かに作られた自動機械なのか、何万年と経った今でさえ、その正体は迎え撃つでさえわかっていない。


 …そして、その侵入を阻止する組織の者達が


星海セイカイの守護者』


 守護者は、地球文明とは発生を異とし、太古の刻より太陽系を護り続けてきた。

 悠久から今現在も「イービル」と「星海の守護者」の攻防は果て無く長く続いている。

 守護者のかれらも、争いを収束させようと、過去イービルに対し幾度となく対話を試みるも、その回答は常に攻撃だった。

 更に、イービルを捕獲・拿捕しようとすると、彼らはその心臓たる炉を暴走させ自爆してしまう。その破壊力たるや凄まじく、9番目の惑星軌道をねじ曲げ、カイパーベルトの一部をしまったほどの威力だ、下手をすれば宇宙規模の惨事が起きると予測されているため、今やイービルの侵攻を防ぐには完全撃滅する事が、彼らの矜持となっていた。


 わかっている事は…

・イービルは銀河の中心方向からやってくる

・イービルは大きな集団は作らない

・イービルは大小さまざまのものが存在するが、一度に集結しても5、6船体ほど

  

 だが、そんなイービルが過去に一度だけ複数の集団で、ほぼ同タイミングで多方面から侵攻して来た事があった。その原因や理由は今も判らない。


 地球時間で今から100年ほど前、その時は激しい攻防戦となった、太陽系内に展開していた星海の守護者、ほぼ全艇が出動し、太陽系内のあらゆる場所でイービルとの大規模な海戦となったのだ。

 それでも過去から現在に至るまで、太陽系へ侵入した全てのイービルが、守護者の迎撃により、撃滅されている。 


 ネメシスはその中でも最古参の一艇に入る、戦績も高い


“ネメシス戦闘指揮所”

 索敵範囲を最大に広げ、イービルを電探に検知した、電探士が告げる。


「観測目標は3、観測質量から2つはエバ級と思われますが…もう1つは不明です」


 船長席に座るネメシスの船長ローグ・ソコラウス。歴戦の船乗りであり、ネメシス二代目船長。

 彼らは地球人と見た目はほとんど変わらない。なぜならば、かれら守護者は文明こそ違えど、地球人の持つDNAと近種にあたる。


「エバ級よりも質量が小さいな…」


 ローグは船長席でそう独言ひとりごちる。

 レーダーに映る3っつの光点、その内の一つは小さな光点だった、光は敵の大きさを現している


 “種別不明アンノンウン”


 亜光速で太陽系最外縁部より外側、オールト雲帯を移動している3体。

 そのまま太陽系を通り過ぎる軌道をとっていたのでローグは様子を見ていた。


「…今のところこちらに来る軌道ではないようだが…」


 ローグがそう言った矢先だった、3体のイービルが突然主星方向(太陽)に急転換する。


「ふん、やはりこちらへ来るか」

 ローグはニヤリと笑った。


「本部へ通報、目標イービル、識別エバ2、不明1、本船はこれより迎撃に入る、主機オモキ全力運転」

 ネメシスが凄まじい加速で軌道を曲げて行く

「会敵予測点、18-45-102-8」

「だいぶ内側に入られてしまうな」

 索敵星図盤にイービルの軌道、ネメシスの軌道が表示されている。

その予測軌道線が交差する点が、接触予測位置、会敵点だ。


 …亜光速で加速するネメシスが、会敵予測位置に近づく。


「目標光学視認、映像出します」


 電探士がそう告げる

 迎撃目標に追いついたネメシス、揺れ動き補正される画像を見ながら船長のローグは冷静に状況を分析する。


「今までと何か違う気がする…だがやる事は一つだ」


 ネメシスは目標と相対速度を合わせていく、目標はすでに第11番星軌道近くまで侵入してきていた。


「攻撃射程に入ります」

 電探士が告げる

「よし、やるぞ、後方につけろ、砲雷撃戦用意!」

 船長の言葉に気合いを入れる乗員達、ネメシスは戦闘態勢へと移行する

「主機問題無し」

「陽電子砲蓋板開放、光電加速管1番から42番まで充電掛ける」


「初撃は不明1、”ドロシー”と呼称する」


不明物体に対し、ローグがそう宣言した

 

ダガーナイフの刃先の様な型をしたネメシス、その両舷上下に設置された計8門の陽電子砲が艇外に姿を現し、其々が前を向く。


 光学観測で見える中心の目標、命名された”ドロシー”は白く淡く輝き、突起もなく、綺麗な楕円型をしている、そもそも反動推進のノズルが確認できない、併走する機械剥き出しのゴテゴテしたエバ級と比べてもその容姿は、今まで見たことがない異様さがある。


 そのドロシーを、ネメシスが射程に捕捉した

「加速管満充電」

「測的誤差なし」

「放て!」

 陽電子砲が輝き火線が開いた、亜光速で移動しているので、陽電子流が肉眼でも見える


 …しかし


「なに!?」


 ローグは思わず船長席から身を乗り出した。

 イービルがローグの予想だにしない行動に出たのだ、進行左のエバ級がドロシーの後ろに素早く回りネメシスの放った陽電子弾の盾になったのだ、身を挺したエバ1は陽電子弾を受け被弾する。と、今度は突然警報が船内にけたたましく鳴り響く

「エバ2!急減速!!」

 乗員の悲鳴に近い報告!今度は右のエバ級が急減速し船体を横に向け、ネメシスに向かってきた。転舵回避しきれない。

「船首下げ一杯!加速しろ!!」

 ガクンっと激しいGがかかる、しかし

「間に合いません!」

 あまりに突然で近すぎた、ネメシスはこれを回避しきれない、船体上部にエバ2が激突、上部陽電子砲4門がはじけ飛んだ、金属がひしゃげる嫌な音をたて、火花を散らし、エバがネメシスに食い込みながら後ろへと抜けて行く、直撃に近いが、居住区画は被害を免れた、だが、そのまま後部をごっそりと抉られてしまっていた。


「主機出力低下!いえ沈黙!」


「ダメージコントロール!陽電子砲は!」

「主機反応なし、加速管に再充填できません!」

 ダンっとコンソールを拳で叩くローグ


「やられた」


 ローグは天を仰ぐ

「コレは不用意過ぎたのか?…いや私の慢心だ」

 シートに深く沈み込むローグ

「しかし、イービルズが僚艦を守るなどという行動に出たことなど過去一度もありません」

 乗員の1人がローグにそう告げた


「エバ級はドロシーの護衛だったということか?バカな…」


 戦闘開始わずか3分

 主機に深刻なダメージを負ってしまったネメシス、砲撃も追撃も不可能だった

部品をばらまきながら、回転し惰性で航行する。主機はおろか補機も停止してしまった。緊急推進剤を使用して姿勢を戻しつつ減速中だがそれもまもなく尽きる、どこまで流されるのか分からない。


「目標はどうなった」

「ドロシー見失いました、エバ2隻は太陽系外へ転進」

「そうか…本部へ連絡、ジャックジャックに救難要請」


 被弾したエバ級2体は、ドロシーが進む方向に追従せず、急転換し太陽系外へと離脱して行く

 ネメシスはそれを確認した


「盾とはな」

ローグが忌々し気にそうつぶやいた

 …


 定期メンテナンスで、8番星の衛星”トリトンドック”に入港していた別の戦闘艇。


 巡視打撃6号艇”ライコウ”


 ネメシスと同型の舟だ、その戦闘指揮所…


 定期検査が終了し、乗員による最終チェックを行なっていた。

 待機していた通信士が告げる。


「船長、ネメシスより緊急信号、航行不能、救難要請」


「イービルに抜かれたのか?」

 船長席に深く座っていた男が身を乗り出す。


「その様です」

「一番近いのは?」

「我々です」

「点検状況は?」

「7割8分」

「本部に通達、ライコウ出る、残作業は飛びながら行う」

「了解」

 ライコウの船長がマイクを手にした。


「ライコウ緊急発進する、乗員は2分で乗船せよ、積み込みが終わっていない物資は置いて行く、補機始動、主機起こせ!」


 乗員達が素早く動き出す。

 指揮所にも人が走り込んでくる、練度の高いライコウ乗員、2分弱で全ハッチが閉じられた。

 補機が動き出し、舫が外される。発進手順を無視し、ライコウはドッグの外へ。

 8番星の衛星、トリトンの軌道上にあるトリトンドッグ


「ライコウ、発進」


 主機が唸りを上げ、反動推進に火が入った。

 吹き飛ぶように一気に加速して、星の海へと突入した。

 …


 信号を頼りに、ライコウはネメシスを探す。すると…

「ネメシスを捉えました」

 電探士が告げる

「相対速度合わせ」

 ライコウは、ばら撒いた部品と共に惰性で漂流するネメシスを発見した。無惨にも船尾が主機ごと無くなっている。

「舫、放て」


 ネメシスの戦闘指揮所

 衝撃音、そしてガクンと船が揺れ減速が始まるのを感じた。

 生命維持のため、全ての電力を切っていたネメシス

「なんだ?」

「船長、6号艇です」

 窓の外を双眼鏡で見ている船員がそう言った。ローグが星図を見やる

「6号?ライコウか…この宙域ならエイハブのはずだが?」

 

 ローグが知る6号艇ライコウの船長はクロウと言う人物、直接会ったことはないがかなりの美丈夫らしい、それも、地球生まれの地球育ちという星海の守護者の中でも珍しい純粋な地球人、かの星では軍属の一族だったと聞く、どういう経緯で宇宙に来たのか不明だが、戦闘センスが素晴らしく、100年前の三番星海戦では10 隻近いイービルを単艦撃滅している。


『ライコウよりネメシス、ローグ船長、状況確認』


「ライコウ、ローグだ、人的被害はない、主機が沈黙、電力低下でレーダーその他が使えない、そちらから見て船はどうなってる?」

『後部が主機ごと無くなっています。雷撃被弾ではない様ですが…』

「体当たりだ」

『…そんなフザケタ事をするのは、イズモニクスの船長ぐらいだと思っていましたが…』

「いや、ぶつけてきたのは向こうだ」

『…本当ですか?』

「本部には報告を上げている、追撃を頼みたい、まだ追いつくはずだ」

『了解です、敵の情報をお願いします。追撃はこちらで引き受けます』 

「すまん、ライコウへ情報伝達せよ」

 ローグが指示を出す

「3号艇エイハブは来ないのか?」

『連絡はありません。あちらは動けば担当宙域防衛に穴が空くからでしょう、こちらはそもそも内惑星帯担当なので、多少の融通が効きます。我々はたまたまトリトンドックに来ていただけです』

「そうか」

『まもなくジャックジャックがきます。それまで持ちますか?』

「問題ない、行ってくれ」

『了解しました』

「ライコウ、武運を」

 …


 再びライコウ戦闘指揮所

 ドロシーの飛び去った主星方向へ、全速航行するライコウ。

 船長席で電探画面を見て考え込むクロウ。

 そんな折、彼のポケットから軽快なメロディが流れ出した。


「少し空ける、ベン、しばらく任せる」


 クロウが小柄なのか、目の前の人物が大きいのか、答えは後者、ベンと呼ばれた大男は、クロウの副長である

「御意」

 と答え乗員に指示を出す。

 クロウは通路へと出るとポケットから音源である物を取り出した

 それは地球製の古い携帯通話端末だ、フリックを開き、受話器ボタンを押すと耳に当てた。


「クロウです」


 それは本部も知らない装備、地球製の古い携帯電話を改造した、秘匿量子電信通話機


『やあ、久しぶりだねクロウ』


 電話の相手は男性だった、出るはずの相手ではなかったことに驚くクロウ

「あなたは…そうですかこの通信機の存在を知っていたのですね」

『ああ、彼女のおもちゃは大体は僕が与えたものだからね』

「お方様はお変わりありませんか?」

『息災だよ、相変わらずヤンチャがすぎるがね、そちらもシズは元気かい?』

「白磁の都市で子供達と健やかに過ごしています」

『それは何よりだ、ところで、だいぶ宇宙が慌ただしい様だね』

「かような遠方におられながらそれを察しますか、流石千里眼でいらっしゃる。8号艇ネメシスがやられました。ただし乗員は無事です」

『ネメシスは今もローグかい?」

「そうです』

『相手は?』

「今まで見たことのないイービルだそうです」

『そうか…』

「…これから我がライコウが接触し撃滅します」

『…その事なんだが…今地球に向かってくるその子を見逃してはくれまいか?』

「それは承復いたしかねる」

『これはお願いだよクロウ』

「何のために?、それは我らの矜持を捨てよと言われているのと同義、重ねてお断りいたす」

『…そう言うと思っていたよ、残念だが仕方がない、断られるとわかっての連絡だ、状況を確認したかっただけなんだ、許せ、以後気にしないでくれ』

「何ゆえですか?、何ゆえ見逃せと」

『それは秘密だ、武運を戦友』

 相手はそう言うと通信を切った、クロウは暫く考え込んだ、そして今度は自ら通信機を操作する、呼び出し音が鳴りしばらくすると相手が出た。


「…クロウです、御前にお取り次ぎ願いたい」

 …


 船橋へ戻って来たクロウは正面の画面情報を見やる

「目標はどうか」

「いくつか、航路予測してみましたが、どれも決定打にかけますな」

 と、ベンが答える

「重力計はどうか」

 クロウの問いかけに電探士が答える

「極僅かですが、揺らぎを確認しています、目標ドロシーは、小惑星帯軌道の外を高速周回しているようです」


 本部の見解では、飛び去った方向とその先にある”アーシングライン”、それから各惑星の位置関係から小惑星帯軌道より内側には行かないと言う推測だ、仮にあの強固過ぎるシステム”アーシングライン”に突入すれば、ひとたまりもなく撃沈されてしまうだろうとの見立てだった。


”アーシングライン”とは


3番惑星より外側、4番惑星の内側に広がるバブル状に存在する領域

この領域には、謎の”魔物”が住んでいる。

領域に踏み込んだあらゆるものは、この”魔物”に一瞬のうちにるのだ。

それはイービルはおろか、星海の守護者でさえ例外ではない。立ち入る者を問答無用で殲滅するシステム、それが”アーシングライン”

構築したのは星海の守護者ではない、かれらが行動を起こすよりも以前から存在しており、さらに古い宇宙文明の産物と考えられている

地球の探査機が火星軌道に到達できないのは実はこれのせいでもあるが、例外がある

彗星や小惑星だ、これら人工物でないものは通り抜けられる、その仕組みは不明だ。


 星海の守護者が、完璧な防衛体制を敷く必要が無いのは、この謎の絶対防衛システム”アーシングライン”の恩恵があるからだ。

だが、クロウは今回のイービルの動きから、この”アーシングライン”は突破される、そう考えていた。

 クロウが設置している小惑星帯の重力計群は、空間の小さな変動を捉えている、そこから彼は直感で、ドロシーが突入場所を探っていると考えていた。


「回廊を探しているな」


「拙者も同じ考えです、概ねそうでありましょうな」

 ベンも同意する。アーシングラインには実はがある

 それはと呼ばれるもので地球軌道近くまで続く。

 そこを通ればアーシングラインの「魔物共」に捕まらない。ただし、目印もなく、出現位置も変わるので、回廊を捉えるのは簡単ではないが、クロウは長年の経験から、回廊の出現位置をある程度把握していた。それをドロシーは短時間で見つけようとしていると推測する。

 ドロシーは間違いなく回廊を発見する…クロウの感がそう囁く

「78番重力計機群の動きに注視、おそらくドロシーは次に現れる回廊へ向かう、追撃する」

 電探士が目を剥く

「船長、まさかソレは…」

「あれは、今までのイービルではない、締めて掛かるぞ」

「御意」

 ライコウは主機全開で一気に加速を開始した

 …


 …そして、それはクロウの予測通りだった、進路にドロシーを捉えた。ライコウの接近にドロシーは気づき逃げるかのようにさらに加速する。


「光学撮像できるか?」

「亜光速ですが、問題ありません」

「陽電子砲射程に入ります」

「まずは足を止める、測的は適当でいい、速やかに撃て」

 ライコウは、陽電子砲を放ちドロシーへ威力射撃を行った、ドロシーは幾つか被弾するも上下左右に逃げ、徐々に軌道を曲げていく、クロウの読み通り、ドロシーは加速したまま出現した回廊へと入って行く、追うライコウはドロシーより足が速い

「砲撃を絶やすな連続射撃、距離を詰め次第格闘戦に入る、もやい用意!」

 ガチっと左右からアンカーが顔を出す

 ドロシーは逃げながら光弾をばら撒いた、触れれば船体に穴が空く超高温の物質だ、ライコウは陽電子砲でそれを吹き飛ばしつつ、ドロシーにアンカーを打ち込んだ


「捉えました!」


「耐重力制御、ベン!振り回せ」

「おう!」

 ライコウがドロシーを軸に円を描くように機動を行う、ドロシーはそれにつられ振り回され始めた、ライコウの砲撃、直撃、爆発、そのまま、ライコウはドロシーを引きずって行く

「回廊の外に放り出せ!」

 そうすれば、後はアーシングラインの魔物達が始末してくれる

 しかし、ドロシーに変化が起きる、その白い船体が船首から真っ赤に染まっていったのだ


「なんだ?」


 するとボディの至る所に目玉の様なものが現れた、なんとも醜悪な姿へと変じる

 其れらの”目”がライコウに向けられ、眩く輝いた、咄嗟にクロウが叫ぶ!


「舫外せ!回避!」


 クロウが叫ぶよりも早く、操舵手の神がかった操船で船体が跳ねる様に横滑りする

 だが、左のアンカーが外れなかった、ライコウの船体表面を見えない摩擦が焼き上げて行く、破壊音と爆発、装甲が融解し、その衝撃で左のアンカーが外れた、遠心力が働き、ライコウとドロシーは切り揉みになるが、ライコウは直ぐに姿勢を戻した。


「損害報告!今のはなんだ」

「主機問題無し、右舷陽電子砲群使用不能、人的損害無し」

「エネルギー量からアレは…荷電粒子砲です!」

「あの小さな船体でか」


 クロウは冷静に分析する。それは陽電子砲よりも強力な荷電粒子砲、イービルズの中でも大型艦しか積んでいないはず、それは過去に確認している。

 エバ級よりも遥かに大きなクラス2つ上のグナース級だ、しかし、クロウはそこではたと気がついた。


「紅い船体…まさか、アレが”スカーレット”とか言う奴か?」


 クロウはかつて1号艇”イズモニクス”の船長に聞いた事があった、イービルズの中で、炎の様に紅い船体を持つものがいると、それは”スカーレット”と呼ばれ、姿形が他のイービルとは全く異なると言う、更にそれは非常に賢くイービル達を導く指揮官的存在なのではないかとも、ネメシスの情報にもそれがあった、随伴していたエバ級2隻がドロシーに対し身を挺したという、


ドロシーは先程よりも機動力が上がっている、敵とみなしたライコウに襲いかかって来る、荷電粒子砲ではなく、先の超高温光弾を大量に放ってきた。


「コイツは3番星軌道戦時にもいなかった相手だ」

 クロウは確信に至る


 3番星軌道戦


 クロウ達船長の間では”地球沖海戦”と呼ばれている、一度に複数のイービルの群れの侵入を許し、アーシングラインを越え生き延びた、手練れのようなイービルズ達と地球軌道近くで行われた熾烈な戦、守護者が持つ巡視打撃艇の、ほぼ全てで対応した激しい戦いだった、イービルは殲滅できたものの、守護者側も乗組員ごと2隻を失った、今もその時の守備の穴が影響を受けている。


「火力は向こうが上だが、荷電粒子砲なら再充電には隙があるはず、一気に叩く、回廊から押し出せばこちらの勝ちだ」


 ならばとライコウは陽電子砲で光弾を蹴散らしながら一気に接近し、再度アンカーで捉え逃げ脚を封じようと試みる、だが一瞬、ドロシーの周囲にきらめくものを見たクロウ、ドロシーがアンカーの射程に入る、ライコウのアンカーが射出される


その時だった!


 突然ドロシーの周りに光の帯が4本現れた、それはドロシーから伸びている、鞭の様にのたうちまわり飛んでくるアンカーを切り刻んだ、そこに飛び込む形になったライコウ


「回避!」


 クロウが叫ぶ

 襲いくる光の鞭、ライコウの船体に触れ焼き刻む、ライコウは、その鞭の中を掻い潜り、ドロシーから一度ひとたび離れた、これでは近づけない


「武装が多彩だな」


 と感心するクロウ、だが、さらなる脅威がライコウを襲う


“荷電粒子砲なら次弾発砲まで時間がかかる”


 そんな予測が見事に裏切られた、なんとドロシーが再度、荷電粒子砲を放ってきたのだ


「早すぎる!!」


 船橋で悲鳴が上がる、今度は避けきれず直撃を受けてしまった、左舷の陽電子砲群、左舷主機、が爆散する。

 激しい衝撃、ライコウは主機を一つ失われたことで速度が落ちた、ドロシーは白色に戻り、加速して逃げていく、速度差が生まれた、引き離される

「機関士!」

 呼ばれただけで、機関士はすぐさま理解し返答する

「15秒下さい、エーテル回路をバイパスして右舷主機に回します」

「しかし…このままでは逃げられる、いや地球に到達してしまう…」

 クロウは、先の量子通信の言葉が気になっていた。


「見逃してほしい」


 見逃せば、イービルは地球に落ちる。そして未曾有の大災害起きる。ただし、それがどんなことを引き起こすのかは、星海の守護は誰一、想像ができていない


「なぜだ、なぜそんなことを言う、何をするつもりなのですか貴方は…」


 クロウは再び星図を見た

「地球の艦隊はどこにいる?」


 その頃、地球軌道から遠く離れた位置で数隻の宇宙船が慌しく動いていた。


 ”国連憲章航宙艦隊”


 地球の艦艇群は、地上の戦闘艦船を上下ついにし、そのまま宇宙に持ってきたかのような外観をしている。

 ライコウとドロシーの放った砲撃の光を連続して捉えたことで、艦隊が結成されて以来、警戒レベルが初めて引き上げられた。

 ただし、艦隊行動とは名ばかりで、各国の思惑が絡み合い今ひとつ統制は取れていない。

 地球軌道圏より宇宙を監視し続け、実際に人工的なモノが観測されたのは初となる


 地球外生命体の存在

“太陽系には地球文明とは異なるモノが存在する”

 19世紀も終わりの頃、そう予言した科学者がいた。近い将来、人類はそれを目の当たりにするだろうと、俗物的で酔狂な人物ではなかったが、時代はそんな科学者の言葉を異端として闇に葬った。


 …そして人類は20世紀半ばその予言が正しかった事を知ることになる。


 1943年、第二次世界大戦が激しさを増しつつあったある日

 地球の全天で大規模な流星群が突如として発生した。

 当時の地球人類はその美しい輝きの光景を眺めるだけだったが、それはまさにイービルズと星海の守護者達の大規模な海戦だった。

 当時、宇宙へ出ることがまだ出来なかった人類は、一部を除いた者達以外、その事実を知ることはなかった。

 長い大戦が終結し、国連は戦後処理をしつつ、秘密裏に宇宙からの脅威への対応を、主要理事国に呼びかけ大国主導で国連憲章航宙艦隊構想が立案され承認された。


 しかし実際には、冷戦や様々な国家間紛争などがあり、実現するには実に100余年を費やした。


「間違いないのか?」


 北米同盟艦エンタープライズの艦長、エドワード・ハリゼーは観測報告を聞いて唸る。

「1306時、2回の発光を捉えました。2度目はかなり強い発光です」


 艦隊行動練度訓練のためラグランジュポイントまで来ていたのは、エンタープライズとその僚艦インディペンデンス、EU連合艦ガリレオ、南米同盟艦アコンカグア、中国1番艦テンシャン、2番艦コンロンもそれを捉えていた、それでも光を捉えただけで、現状は把握できていない、2つの物体が戦闘しながら近づいてきてることまではわかっていなかった、そこへ通信士からの報告が入る

「艦長、正体不明のデータを受信」

「何?」

「コレは…モニターに出します」

 其処には地球を中心とした火星軌道までの星図だった、地球の物ではないが地図の片隅に地球のグリニッジ標準時が表示されている、現時刻表示だ、どうやらリアルタイムで動いている。地球から遠く離れた先に赤い光点と緑の光点が地球方向に近づきつつある


「何だコレは」


 少し戻る

 クロウは地球の艦隊がラグランジュに展開している事を察知し彼らを利用する事を考えた。少しでも足止めをしてもらいたいという目論見だ、10秒留めることができれば御の字である。クロウは本部への報告なしに、即座に星図とアンノンウンの進路データを地球艦隊に向け送信していた。


「移動する光点は、光が観測された方向です!」

 分析を担当したエンタープライズ乗員が報告する

「このデータの発信源は?」

「同じ方向からです!」

 これが何を意味するのか、とハリゼーは即断する

「全艦第一種戦闘配置!僚艦にも伝達、艦隊雷撃戦用意!移動物体の速度は?」

「秒速6万キロです」

「何?時速ではなくか?」

「秒速です!」

 送られてきた星図が指し示す光点の移動の速さは的確だ、恐るべき速度、光速の約20%、人類にとって未知の速さである。

 正体不明のデータ通信はここに居る艦艇全てが受信している、北米同盟艦エンタープライズ他、全ての艦が即座に反応した。ミラーリングイオンスラスタをほぼ同時に噴かし艦隊移動を開始する


「テンシャン、コンロン、前に出すぎだ」


 しかしその中で中国艦2隻が突出する、基本レギュレーションは全艦一緒だが、中国艦は他の艦より主機が1基多い5基のパワーがある、他の艦よりも若干速い

 ハリゼーが顔をしかめる

「テンシャンより通信」

「読み上げろ」


「”各艦へ、テンシャンは僚艦コンロンと共に接近する物体の捕獲を試みる、貴艦らには援護をお願いしたい”、とのことです」


 相手は光速の20%という速度でやってくる、どうやって止める気なのか、ハリゼーはしばし考え込むが、足の速い相手をとにかく減速させる必要はある。

 各艦に同意を取り中国艦2隻を中心に其々円形に取り囲む、コンロンとテンシャンの間にケーブルが渡されネットの様なものが張られていく、ハリゼーは、最初何の冗談かと思ったが、そのネットが淡く光り始めた、導電性カーボンナノチューブと2隻分合計4基の核融合炉による発電量に物を言わせた高電磁ネットだった、ハリゼーは中国艦が時折、貨物用マスドライバーを用いて、謎のキャッチボールをしていた事を思い出す。


「アレか」


 エンタープライズは要請に従い雷撃態勢をとりつつ、2艦の後方に追従した。

「中国艦、コリジョンコースに入ります」

「レーダーはどうか」

「目標が速すぎて、パッシブでも捉えきれません」

「会敵は」

「接触予測まで20秒」

「融合炉全力運転、レーザー砲最終安全装置解除」

 その時、キラっと何かが光ったと思いきや

 ソレは避ける事なく、中国艦の電磁ネットに飛び込んできた、あれだけの速度だ、そうそう避けられるものではない、ネットに絡まるアンノンウン、同時にネットが艦から切り離され、繋がったケーブルが物凄い勢いで吐き出されていく、だが想定以上の勢い、ケーブルが出て行くスピードよりも目標のスピードがはるかに速い、中国艦2隻は勢いを殺すべく逆進を全開に噴かすが、ワイヤー長さが終わりを告げる。

 ワイヤーの根元は2艦に繋がったままだ、その接続の頑丈さが仇になった。その衝撃でテンシャン、コンロンは弾かれるように姿勢を崩した、両艦はその勢いで引きずられ、ついには接触する、火花を散らしテンシャンがコンロンの側面にその艦首を激突させてしまった。

 しかし、ただでは起きない中国艦、電磁ネットへ最大電力の電撃を流したのだ、

凄まじい電撃がアンノンウンを襲う、アンノウンは小爆破を起こし、ついにその動きを止めた。

1つの物体と2隻の艦が絡まる様に惰性で流れていく。


「テンシャン、コンロンの状況は?」

「接触はしましたが航行に支障はない様です」

「ただケーブルの巻き取り機が破損したとのことです」

「それで済んだのか?、頑丈な艦だな」

苦笑するハリゼー

「無茶をしたがまずは成功か、引き続き警戒を維持、目標へはいつでも撃てる様にしておけ、艦首回頭、接近する」

 エンタープライズが目の前を漂うネットに絡まるアンノンウンへと近づいて行く、ハリゼーは双眼鏡でその物体を眺めた。


「なんとも異様だな、まるで巨大な卵だ」


 丸く突起もなく透き通る様な白、漆黒の宇宙空間で浮いて見える、どちらが前なのか後ろなのかもわからない…

 と、アンノンウンに異変が起きる


「目標に動きあり!」


 真っ白な船体が赤く炎の様に染まっていく、まるで怒りをあらわにしたかの様に、そして次の瞬間その船体に目玉の様なモノが無数に開き瞬間眩く発光した

 無音の世界で、コンロンの船体が中央部から爆散した、デブリを撒き散らし火を拭くコンロン、続けてその目がテンシャンに向く

 テンシャンはネットを切り離しスラスター全開で離脱を図るが、アンノンウンは離れるテンシャンの後部に先ほどの閃光を放った

 テンシャンが爆発し弾かれ、船体がゆっくりと回転する。


 一撃、恐るべき火力


 アンノンウンの放った閃光は、電磁ネットをも蒸発させてしまったが、アレも無傷ではない様だ所々白煙を上げている、ハリゼーはあまりの光景に唖然としていたが、ハッと我に帰る


「今の攻撃は何だ!」


「かなりの高エネルギーの射出です、計測不能、目標にエンゲージ!、いつでも撃てます!」

「あんなものを地球に向かわせるわけにはいかん!、OPEN FIRE!」

 エンタープライズは、各艦とリンクし攻撃を開始する、停止しているアンノンウンに対し各艦のレーザー砲が攻撃を始めた、しかし、レーザーはまるで効いていない、それどころか吸収されているようだった、ハリゼーは直ぐ次の手に出る

ASSMアッサムロック1番から6番、発射!」

 甲板と艦底から、6発の対艦ミサイルが豪炎を吐きながら飛翔する、無傷の3隻も同時発射し18ものミサイルが超音速でアンノンウンへ殺到した、いつの間にかアンノンウンの色が赤から白に戻っている。迫るミサイルは、寸分違わずアンノンウンに弾着した…かの様に見えた

 ハリゼーは絶句する

 ミサイルがアンノンウンを擦り抜けたのを見たのだ、ミサイル同士が接触し爆発、巨大な火球が発生した

「衝撃に備えよ!」

 凄まじい火球の衝撃波が艦を揺らす、ハリゼーは椅子の縁を掴み踏ん張るほどだ、衝撃が収まり光も収まる

「状況報告!目標は!!」

「目標に弾着していません!ロスト!」

 艦のレーダーには映っていない。

 ハリゼーはさっきのモニターの星図を見る、赤い光点は遥か先に行っている

「一瞬で加速したのか、あんな化け物、どうすれば止められると言うのだ!」

 ゾッとするハリゼー、しかし軍人としての矜恃がある

「追撃する!、各艦に伝達」

「艦長!、テンシャンとコンロンより救難要請、両艦とも航行不能です」

「くそっ!」

 其処に、突然船内に異常接近警報が鳴り響く、もう一つの緑の光点、ソレが今まさに艦隊の中央を抜けようとしていた。

 後方から、超速度の物体がエンタープライズの右舷スレスレを通り越して行く、唖然とするハリゼーとエンタープライズ乗組員、人の目では捉えられないほどの速度が出ている。カメラは捉えていたが相対が速すぎて引き伸ばされた様な画像だ、隕石、彗星の類いではない、明らかに人工物体だった。

 …


 ドロシーは、その後方に控えて包囲攻撃しようとする地球艦隊を無視して突き進む、


 蒼き星に向かって


 その後ろから、ライコウも追っていた。


「ドロシーの速度が明らかに落ちている。先の地球艦隊の働きは称賛に価する、彼らの力を見直す必要がありそうだな」


 クロウはそう独言ひとりごち


 これなら追いつく、クロウはこの機会にと電探士に命じ地球艦隊の艦種、数など確認させていた。亜光速での最大光学映像なので、粗い画像だが、取得された情報がクロウの目の前のモニター並んで行く。先程追い越した大型艦から地球軌道近傍に展開している艦影まで既に網羅されている


「どれも同じ艦種か…ん?」


 その中で他とは明らかに形状の違うものが2隻あった、小さな小型の艦艇だ。クロウが知る由もないソレは地球艦艇全ての祖にあたる


 サガミノ国の旗艦コウギョクと随伴艦セイギョク


「これは12号艇?‥いや違うな、似てはいるが…」

 その船は我感せずと言った感じで、攻撃にも参加していない様だ、事実、コウギョクとセイギョクは自衛以外の攻撃能力はほぼ有していない、さらには国連艦隊の所属ですらない、ただ観測と調査をすることが使命だった


「いずれまた会うこともあるだろう」


 クロウはそう思った。

 ある程度地球の最新情報収集を済ませたクロウは本来の目的に戻る


 ドロシーの撃沈


 ドロシーは月の重力を利用して軌道を曲げ、地球衛星軌道内へ侵入、目的地を見定め大気圏へと突入を開始する。そこは星海の守護者達の中で言い伝えとなっている、


 ”イービルズが等しく目指す場所”


 もはや猶予はない、撃沈には一撃必殺が必要、しかしライコウは片肺な上、陽電子砲は全て使用不能、だが手はまだある。


「鋼弓を出す」


「御意」

 クロウの命令で砲雷長がレバーを操作する、ガチャりと音がして、砲雷長の目の前に銃床が飛び出した。

「やれるか?ヨイチ」

「問題ありません」

「拙者は砲弾装填に参ります」

「頼むベン、船首開放、射撃は砲雷長に一任する」


 ライコウの船首フェアリングが開いて行く、そこから顔を出す長砲身


 ”203mm滑腔砲”


 他の艇にはないライコウだけが持つ、亜光速戦闘では全く使い物にはならないが、相対停止した目標なら貫通破壊力は陽電子砲をも上回る。

 ただ、装填も、照準も、引き金も、人の手によるアナログ兵器。ここで外し、ドロシーが”ソレ”と接触すれば何が起きるかわからない

 何故彼らがそこを目指すのか、誰も知らない、ただ、未曾有の災厄が始まると言われている。


 失敗は許されない


 だが、しくじる気もないし、失敗するとも思ってない、仲間を信じ船を信じる、今までずっとクロウはそうして来た。

 ドロシーはすでに低軌道に入っている、やや下方を降下中だ、ライコウも船首を地球に向け横向きに大気圏スレスレへと侵入する。

 ドロシーが大気圏へ入り大気摩擦で赤く燃え上っているのが見て取れる


 クロウが命じる

「弾種、徹甲、装填」


「徹甲弾、装填、よし!」

 ベンの声が拡声器越しに船橋指揮所に伝えられた。


 砲弾が装填されことを知らせるブザーが鳴る、ライコウの砲雷長が照準器にドロシーを捉えた、静かに息を吸い込み止める、静寂、そして引鉄に指を掛け…軽く引いた


 カチんっ


 火を噴く203mm、あまりの反動でライコウの軌道が変化する、打ち出された砲弾は吸い込まれる様にドロシーに着弾し、反対面が爆発した。途端に燃えながらキリ揉み状態に陥るドロシー


「次弾装填、弾種同じ」

 クロウが静かに命じる

「修正よし、装填よし」

「続けて撃て」

 素早く射撃しライコウは姿勢を変えながら計3射、全弾命中。ライコウは船首を上げそのまま地球の重力圏から離脱した。


 ドロシーは光の帯を出しながら、なんとか姿勢を保とうとする

 しかし撒き散らされ燃える液体と船体の破壊が止まらない、帯が根元からちぎれ飛び燃え上がる、最後は悲鳴に似た音を放ち、遂に空中分解した

 それらのほとんどは大気摩擦で燃え尽きようとしていた…


 エンタープライズは地上からの観測で、目標は大気圏で分解したとの報告を受けた

 艦内の乗員は喜びをの声を上げるが、ハリゼー艦長は喜べなかった


「何も出来なかった…」


 撃沈したのは謎の船、後衛の地球艦隊ではない。エンタープライズ以下僚艦は、既に追撃を取りやめ、被弾したコンロン、テンシャンの乗員救助にあたっていた。重症者はいるが、幸いにも死者が出ていない。あれだけの損害で奇跡に近い、コンロンなどは殆ど真っ二つだ、乗員が対G宇宙服を着ていたことも生存率を上げたようだ。


「戦い方を考えねばならないな」


 ハリゼーが腕を組み思考していると艦内に短い警報が鳴る

「艦長!、パッシブに感あり」

 再びの襲撃かと艦内に緊張が走る

「警戒態勢!方位は!」

「2-7-0、距離…100です」

「何!?」

 直ぐ目の前、左舷側に、いつの間にか船がいた。ゆっくりと通り過ぎて行く

 それはアンノンウンを追い、撃沈した船だとハリゼー艦長は確信した、彼は双眼鏡でそれを見やる、地球の船と同様に、左右に赤と緑の舷灯を点灯させている、偶然なのか、地球の航行ルールに恭順しているのかわからない。

 様相は、あのアンノンウンとは異なる、両舷は酷く焼け焦げており裂かれた後も見える、凄まじい戦闘をしてきた事が判る、ハリゼーは目の前にいる舟が、どことなく地球艦隊の祖となった、コウギョクに似ていると思った。

 するとその謎の船から短い発光信号が送られてきた、それは地球の言葉だった。


「アオノブジンタチニケイイヲ」と


 その舟が敵か味方なのかは今はわからない、しかしハリゼーはその不明艦に対し敬礼をした、それを見て他の乗組員も敬礼をする。不明艦は敬礼を受けたかの様に、舷灯を3回点滅させ消すと

 一気に加速し宇宙の闇に姿を消した

 ……


 その日、ドロシーが大気圏で撃沈され燃え尽きたかに思われたその破片の多くは、独立サガミノ国に火球となって降り注ぎ、建造物などが大きな被害を受けた、その中で一番大きな被害をもたらした火球が、アマミシトド神社に落下したもの、すなわち…


 火球だった。


 ………

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