その時、携帯が鳴った



その時、美空の携帯宝珠が鳴った。魔法と科学の融合が進んだ27世紀において、個人連絡手段と持ち運べる召喚門を兼ねている。ひとしきり毒を吐いたあと艦に戻って一人わびしい夕食を取った。最初の頃はアンドロイド彼氏を相手にしていたがすぐ虚しくなってやめてしまった。

その日はもう寝ていたので、着信音自体にときめくことは無かったではあるが、いつもの時間帯からは考えられないぐらいな、音量だ。

どうも電話を掛けてきたのは、妹の千穂(ちほ)ではなく、別の人の声だったようだ。

「あ、もしもし」

思わず声を出す。

「あのさ、その前にその……」

聞きなれたトーン。

やっぱり千穂か。

「あァ~なンだ、何か用か?」

美空の声を聞いたとたん、千穂が切れてしまった。

「い、いや…… その、さ」

言い淀むと、今度は何か言いかけていた千穂がうめいた。

いったい何が言いたいのだ。

「ていうか、死人に何の用?」

法律上では死んだことになっている。千穂は旦那と男児二人に恵まれ開拓キャンプはずれの高級マンションに住んでいる。赤の他人なので接触は可能だが故人として金品を授受したり契約関係を結ぶことは禁じられている。

「お姉ちゃ…あわわ…その…今日、雨の中で嘆いてたのを見てしまいました」


げっ、と美空は絶句した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る