曇天のフレッシャーズ

モヤモヤが晴れない。スッキリした五月の青空、新緑がめぶき、風が心地よい。そんな時は、もう一度心に染みてもらいたくて、美空はいつもこの季節を選ぶのだ。

この季節が終われば、美空は本当の意味で、いつもの朝になる。レゴール二号星は亜熱帯気候で雨季がある。曇天に美空の出番があるというのもおかしな話だ。植民星駐在の航空戦艦は閑職だ。着任早々を守護者だの女神様だの現地メディアが祀ってくれたが街が賑やかになると他の重大事件に埋もれた。美空の仕事と言えば超生産能力を活かしてインフラに溶け込むこと。敵襲をちょっぴり期待してみたが三年も平和が続いている。航空戦艦の存在確率は絶大で邪の侵入を頑として拒んでいる。

「あァ~ー!」

美空は濡れそぼる街路に吠えた。人通りのめっきり絶えた通りは数少な居場所だ。女神様云々のお祭り騒ぎがひと段落してマスコミの大攻勢を避けるように暮らしている。


日々の仕事は単純だ。上下水道や発電所など縁の下の力持ちとして港に停泊している。百億光年を飛び回る翼を持った籠の鳥だ。たまには大気圏を出てみたい。戦略創造軍の最新レポートによれば帆座の蓋然性擾乱因子は完全制圧した。つまり天下泰平ということだ。巨大なIPS細胞の塊である艦とは独立して動ける手足があるのだから友達を作ればいい、生身の人間はいう。

しかし、不老不死で不妊のメイドサーバントを相手にする男は皆目ゼロだった。

そもそも「俺より強いし何でも欲しいものを作れるんだろ?俺って要らないよね」と身もふたもないセリフで関係が終わる。

美空は今日も曇っていた。

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