学徒兵の初陣
ドナーの全身から個性を採取する工程が完了し、検体が分子レベルに分解され、然るべき戦力に再構成された。
同時に本籍地記載の自治体が美空・オーファメイの死亡届を受理した。軍令部から艦政本部に新造艦の払い出し命令が下る。
「オーケイ、美空。早速だが君のデビュー戦は我々が全部持っていく」
「どういうことですか?」
「見学している」
そんな話聞いていない。やる気満々だった美空は拍子抜けした。試験管の中で新しい成長すると同時にシンクロ率があがっていく。航空戦艦のエンジンや翼を手足の様に感じる。翼下パイロンにずっしりと砲塔やミサイルの重みがある。そしてモリモリ闘志が湧いてきた。スキンヘッドにカーボンナノチューブが植毛されていく。
「あたし、やれます」
美空は初陣を希望した。
「オーケイ、美空。その意気やよし。だが、未熟な働き者は後ろに下がれ」
つれない返事。
「オーケイ、美空。戦闘の必勝法を教えてやる。先手必奪・一気呵成・一撃離脱だ」
軍はゼロデイ攻撃の対策を打ち出した。
非の打ち所がない反撃だ。
「オーケイ、美空。大船に乗った気分で高みの見物をしてくれよ」
「あたし…艦なんですけど…」
そして、共同交戦システムがネットワーク戦闘モードに切り替わった。時間にして十秒もかからなかった。実戦闘はコンマ数秒。光の速度で反物質ミサイルや陽電子ビームが飛び交い、襲撃者はガンマ線に還元された。
「えっ?!」
歓喜と熱狂と喝采が通信帯域を震わせる。
よかった、やった、助かった。喜びの声にたった一つ欠けているものがあった。美空に対する労いと感謝。
余韻の宇宙に美空はぽつねんと残された。カーボンナノケーブルの髪を生やして蛍光グリーンの漿液に浮かぶ裸の女。硬化テクタイトのチューブを乗客は素通りしていく。
新天地に期待を膨らませる人々にとって航空戦艦の備品など取るに足らない存在らしい。
人類の天敵に追われた難民たちは帆座γ多重星系の一つ「レゴール」にキャンプを拓いた。
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