後半

○住宅街・夢ノ家の住宅付近(夏/昼/晴れ)

  雨の湿気が残る人通りがほとんどない道。

  鈴木、乱れた呼吸で汗をかきながら、走って

  いる。

鈴木のM「(悔しそうに)なんで気付けなかったんだ……」

  鈴木、勢いをつけたまま角を曲がる。


○輿水高等学校・廊下(夏/昼/晴れ)(回想)

  教室から賑やかな声が響き渡る。

  鈴木、ハンカチで手を拭きながら歩いている。

浅井の声「夢ノさんが来なくなってもう一か月以上……」

  鈴木、足を止める。

  高田と浅井、階段の側で向き合っている。

高田「(気まずそうに)そ、そんなに……」

浅井「このままじゃ、良くないよ」

  高田と浅井、黙り込む。

  鈴木、高田の背後に立って、

鈴木「何か知ってるのか……」

  高田、勢いよく振り向きながら、

高田「(たどたどしく)す、鈴木君!そ、その……」

浅井「じ、実は……」

  鈴木、高田と浅井の顔を真剣に見つめる。


○住宅街・夢ノ家の住宅付近(夏/昼/晴れ)

  鈴木、走りながら歯を食いしばる。

鈴木「霞……」

  鈴木、水たまりを踏んで靴が濡れるが、走り

  続ける。


○夢ノ家の住宅・霞の部屋(夏/昼/晴れ)

  霞、ドアを叩く音を聞き、ベッドから起きる。

  ドアを叩く音が止み、

鈴木の声「霞!」

  霞、ドアの手前で止まり、

霞「真……?」

鈴木の声「あぁそうだ、霞」

  霞、おどおどする。

鈴木の声「開けてくれ!もう、閉じこもるのは終わりにしよう……」

  霞、動きを止めて冷たい表情になる。

霞「(大声で)わかったような諭し方、しないでよ!」

  霞、体を震わせながらドアに背を向ける。

鈴木の声「……わかんないから」

霞「(震えた声で)え……?」

  霞、ドアの方に視線を向ける。

鈴木の声「(大声で)わかんないから、こうして来たんだよ!」

霞「なにそれ……」

  鈴木、ドアの向こう側で、ドアにやさしく手

  を当てて、

鈴木「教えてくれよ……」

  霞、歯を食いしばり、

霞「(泣きながら)悔しいから!今まで私が面倒みてたから!でも、

 いつの間にか抜かれて、今じゃ……こんなこと言いたくなかった!

 こんな私を私が認めたくなかった!真に見せたくなかった……!」

  霞、その場にしゃがみ込む。

霞「(小声で)見せたくなかった……」

鈴木の声「当り前だ、俺は……お前を追い抜かす。抜かして俺が、お

 前の手を引っ張りたくて……ここまで来たんだ!」

  霞、涙を拭って顔を上げる。

鈴木の声「とにかく、ここから出て……外の空気吸おうぜ。お前が好

 きなドーナツ屋が公園に来てる」

  霞、呆然とした後、微笑む。

霞「ばか……」

  霞、ゆっくりと立ち上がりドアノブに手を掛ける。


○公園・ベンチ(夏/昼/晴れ)

  霞、子供たちが遊んでいるコートから少し離

  れた所にあるベンチにひっそりと座っている。

霞「(呆然と)……」

  真、コートの反対側からドーナツを抱え、霞

  の方に走る。

真「お待たせ」

  真、霞にドーナツを渡し、隣に座る。

  霞、ドーナツを受け取り、一口食べる。

真「(笑顔で)じゃあ俺も、いただきま……」

霞「(さえぎって)私ね、ずっと真の前に立っていたい……。そう

 思っていたの」

  真、ドーナツから口を離して、

真「(苦笑いで)なんだよ、俺は別に……まだお前の前に立ってな

 いけどな」

霞「(呆れて)特進クラスのくせに……」

  真、霞の方に体を向けて慌てた様子で、

真「いや、そういう意味じゃ……」

  突然、コートの方からバレーボールが飛んで

  きた。

  霞、そのボールを素早くキャッチする。

  コートの方から少年が走ってきて、

少年「すいませーん、返してくれませんか!」

  霞、立ち上がって少年の方にボールを投げる。

  真、ボールを投げる霞を見て顔を上げる。

真「(笑顔で)そうだよ霞!」

霞「(驚き)な、なに!」

  真、霞の肩を叩きながら、

真「(嬉しそうに)お前にはまだ球技で勝ったことないんだよ俺!」

  霞、呆然としながら自分の手を見つめる。


○夢ノ家の住宅・玄関前(夏/朝/晴れ)

  蒸し暑く、セミの鳴き声が響いている。

  真、私服姿でチャイムを鳴らす。

真「……まだ寝てるのか?」

  霞の母、ドアを開けて顔を出す。

霞の母「霞ならもう出かけたわよ」

真「(驚き)マジっすか!」


○公園・コート(夏/朝/晴れ)

  バレーボールが地面に転がっている。

  霞、バレーの練習をしている。

霞「ふぅ……」

  霞、汗を拭って転がっているボールを拾う。

  遠くから走ってくる音と一緒に、

真の声「おーい」

  霞、振り向かずに口角を上げて微笑みながら、

  ボールを投げた。



               終

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起きなくちゃ 烏賊墨 @M-Ikasumi

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