前半

○夢ノ家の住宅・霞の部屋(夏/早朝/曇り)

  灯りは点いておらず、薄暗い。

  机の上や棚の物は整理され、清潔である。

  ゆめかすみ(16)は、ベッドの中に篭っている。

  玄関のチャイム音が響くが、起き上がらない。


○同・玄関前(夏/早朝/曇り)

  鈴木すずきまこと(15)、苦い表情でチャイムを鳴らすの

  をやめて、その場から出ていく。

  鈴木、少し進んで振り返る。

鈴木「(心配そうに)どうして出てこないんだ……」


○同・霞の部屋(夏/夕方/曇り)

  霞、俯いた状態でベッドの上に座っている。

霞の母の声「霞、晩ご飯できてるからね……」

  霞、ドアの方を一瞥いちべつして、

霞「(弱った声で)うん……」

  霞、小棚の上にあった写真を取り、見つめる。

霞のM「(悲しそうに)あの頃までは、私が真を引っ張っていたのに……」


○第一中学校・校庭(春/昼/晴れ)(回想)

  入学式を終えた新入生と保護者で溢れている。

  霞(12)と鈴木(12)、校舎を見上げている。

霞「中学校からは今までより難しいんだって」

鈴木「それが何なのさ……」

  霞、鈴木の方を見て笑顔で、

霞「だから私が勉強、助けてあげるよ」

鈴木「(怒って)はぁ!」

霞「なんでも聞いてね」

  鈴木、拳を震わせながら、

鈴木「(悔しそうに)くそぉ、いつか必ず追い抜くからな!」

  霞、鈴木の肩を小突き、嬉しそうな表情で、

霞「出来るものならね」

霞の母の声「二人とも!」

  霞と鈴木、声がした方に振り向く。

  霞の母、カメラを構えて、

霞の母「(明るい声で)撮るわよ」

  霞、鈴木の肩を掴んでピースをする。

  鈴木、恥ずかしそうな顔をする。

霞の母の声「はい、チーズ」

  霞の母、霞と鈴木の写真を撮る。

霞のN「でも、高校受験を切っ掛けに私は真に追い抜かれ……」


○輿水高等学校・昇降口前(春/昼/曇り)(回想)

  合格者の番号が載った掲示板に集まる多くの

  受験生たち。

鈴木(14)「(嬉しそうに)よっしゃぁ!」

霞のN「彼は特進クラスに合格したが……」

  霞(15)、自分の番号が記されている箇所を暗

  い顔で見つめている。

霞のN「私は無理だった……」

  霞、拳を震わせながら、

霞「(悔しそうに)どうして……」

鈴木「(明るく)霞!」

  鈴木、霞の背後から近寄り、肩に手を軽く乗

  せるが、

  霞、鈴木の手をはらう。

鈴木「霞……?」

  鈴木、掲示板を見て、気まずそうな顔をする。

鈴木「俺、先に帰ってるわ……」

  鈴木、その場を立ち去る。

  霞、呆然と立ち続けている。


○同・廊下(春/夕方/晴れ)(回想)

  下校をする生徒たちが歩いている。

  鈴木、目の前から歩いてくる霞を見て、

鈴木「(明るく)霞!久々に一緒に帰ろ……」

  霞、鈴木を避けて歩き続ける。

  鈴木、霞を呆然と見つめる。

鈴木「……トイレかな?」

男子生徒の声「鈴木!コンビニ寄らね?」

  鈴木、声がした方に振り向き、

鈴木「わかった!」


○同・昇降口前(春/夕方/晴れ)(回想)

  下校中の生徒がまばらにいる。

  霞、暗い顔で歩いている。

高田の声「夢ノさんと鈴木君ってさ、前はお似合いだと思って

 たけどさ……最近ダメっぽそうだよね」

  霞、後ろから聞こえてきた声に気付き、立ち

  止まる。

  高田、浅井と一緒に霞の後ろを歩いている。

浅井「そ、そうかな……」

高田「そうだよ、だって夢ノさん今じゃ完全にお荷物だもん」

  高田と浅井、俯いている霞の横を通り過ぎる。

浅井「そ、そんな言い方しなくて……あっ」

  浅井、立ち止まる。

高田「浅井ちゃんどうした……の……」

  高田、振り向いて固まる。

  高田と浅井、霞を見て慌てる。

高田「(震えながら)ゆ、夢ノさん!これは……」

霞の声「(悲しそうに)わかってるよ……」

  霞、勢いよくその場を走り去る。

  高田と浅井、慌てた様子で立ち尽くす。

  霞、涙を流しながら走り続ける。


○夢ノ家の住宅・霞の部屋(夏/夜)

  霞、窓際に立ち、空を見つめている。

高田のN「今じゃ完全にお荷物だもん……」

  霞、俯いて溜息を吐く。

霞「(小声で)わかってるよ……」

  霞、拳を強く握りながら、

霞「このままじゃ駄目だって、わかってるけど……」

  霞、その場にしゃがんで泣く。







前半 終

後半は5月22日更新予定

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