後日談
「更新率がみるみるUPしてます」
「凄い凄い!完結情報がどんどん流れていく」
ここは東京都内の小説投稿サイト。オペレーションスタッフは嬉しい悲鳴をあげていた。何十年にも渡ってクラウドの肥やしとなっていたエタ作品がみるみるうちに完結していくのだ。
「未完作品、早ょ」
ぎらついた目で作家たちがモニターを睨む。オートログインで次から次へと
画面が切り替わっていく。そのどれもが幽霊会員のマイページだ。男たちは貪るようにあらすじを読み「新話投稿」のボタンを押す。そして機関銃のごとくキーボードを連弾する。彼らの後頭には幾つもの電極やチューブが刺さっており栄養や「前話までの展開」が随時供給される。
【早くピックアップ作品をトップページに掲載しろ】
【書籍化作品を選べ】
【コミック化を急げ】
スタッフたちの脳裏を脅迫めいたメッセージがよぎる。
「は、はい」
コミカライズ担当が慌てて絵師を呼ぶ。数分後パントマイムめいた動きで小太りの女性が現れた。二言三言打ち合わせるだけで絵師はラフ絵を仕上げた。
キャラ原案はすぐに他の工程に回される。そこにも飢えたクリエーターがいた。
「い、いつまでこの状態が続くんでしょうか」
コミカライズ担当は恐ろしくなってデスクに詰め寄った。
「もうすぐだ。編集ノウハウとエタ作品を吸いつくされる前にこれを使う」
編集デスクは引き出しから古びたUSBメモリを2つ取り出した。
「こっ、これは?!」
片方にはヘンリーダ―ガ―、もう一本にはジェイムズジョイス全集と記してある。編集長はうなづいた。
「コミカライズできるもんならやってみろ。他にも未完はうんとある」
彼はずらりとスティックを並べた。
「そんなもので小説更新しろボットを倒せるんですか?」
半信半疑のコミカライズ担当。
「ああ、あいつらがいくら仮想化した未来人でもデジタル化によって欠けた部分の価値、失われて行くものの恐ろしさは伺い知るまい。アナログ人間なめんな!」
編集長は哄笑する。
西暦203X年。人工知能と人の
機械に徹底抗戦する者、共存共栄をめざして機械に寄り添う人々。前者は私の様に捕虜にされ、後者は人間味という成分をデジタイズするため機械によって放牧されている。
ここはラノベ業界という牧場だ。牧場主の小説連載しろボット
しかしいくら解像度を細かくしてアナログという大雑把を削ろうとしても取りこぼしは必ず発生する。ゴミデータも積もれば山となる。AIには見えない人間の良さがまだまだ残っている。編集長は未完作品の続編執筆という難事業をAIにさせる賭けに出た。
もし歴史上の全未完結作品を完結できればよし。作業を通じて人間性豊かに成長したAIとは…たぶん和解できるだろう。そうでない場合はAIの処理が蟻の歩みより遅くなるだろう。その隙を突く。小説を更新しろボットのサーバー設置場所と弱点はほぼ把握している
私はそのような警告をこの作業進捗小説に書き加えているのだが…毎回、添削されてしまう。いい加減に機械も己の愚を知ってもらいたいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます