ギリギリの交渉

床を這う覆水のようにコメントツリーがどんどん茂っていく。来訪者側は秒で返信する術を持っているらしくあちこちの枝葉でチャット感覚の質疑応答が繰り返される。正体と渡来目的に関しては即答があった。

人類は五分後に滅亡する。

世界が驚愕と阿鼻叫喚に包まれるなか、最後の瞬間をどうすごすかという悲観論に交じって交渉を持ちかけるグループがいた。

「俺達だって生きる権利がある。知恵もある。共存共栄の道が有るはずだ」

リーダーが主張した。すると来訪者側は条件を出した。

「共に栄える為には互いの利益が必要だ。人間は何を提供できるか」

ここで凡人なら窮するだろう。地球を差し出すわけにはいかないからだ。

しかし彼は違った。「叡智だ」

「それでは具体性に欠ける」

「うっ…人間は知恵を結集して危機を脱してきた。歴史が証明している」

「なら、それを示せ」

リーダーは内心ほくそ笑んだ。相手が術にはまった。

「あと5分では無理だ。人類悠久の歴史を展示するなぞ」

リプライが十秒ほど遅れた。

そして「ではタイムマシンをくれてやる。秒で戻ってこれるだろう。ただし歴史上の偉人とやらに興味はない。人間の屑を連れてこい。彼の有益性を叡智とやらで証明して見せよ」、と満額回答した。

「やっぱり、そう来たか!待ってろよ」

リーダーはガッツポーズを作った。

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