第6話・もう一人の真面目(前)

 放課後、いつも一緒に帰っている真綿は生徒会が長引いているとのことで、教室にて雲を眺めて待っていた。

みなとさん、少しよろしいでしょうか?」

 すると、せっかく誰もいない教室を独占状態で居心地が良かったのに、闖入者が現れて私の名字を呼ぶ。

「……唐草からくさか……。なに?」

「本日もまた、真綿様からお弁当を受け取っていましたね、やめていただきたいと何度も申し上げているはずです」

「いや、でも……」

 意外でもなんでもないが、真綿は学校でモテる。

 そりゃそうだ。成績優秀で品行方正、容姿も立ち振舞も人を惹きつける魅力に溢れているし。

 ファンクラブなんてものもあるみたいで、その中の一人に私は、よく絡まれている。

 名前は唐草からくさ 志穂しほ

 (学校内での)真綿と似てる真面目女で、典型的な委員長タイプ。

 私と同じ二組ということもあり(真綿は一組)、基本一人では生きていけない私の世話をちょくちょく焼いてくれる。

 だが口調が強く、押し付けがましいと感じない時もなくはないので……言ってしまえば苦手な部類だ。

「でも、真綿が好意で作ってくれてるものだから。それに私も助かってるし断るなんて「言い訳無用!」

 弁明をしてみるも、ピシャリと遮った唐草は授業で疲れた眠たい私の耳に甲高い声で続けた。

「いいですか、真綿様は非常にお忙しい身です。テストでは常に上位、運動能力は各部活から引く手数多、休日にはボランティア、それでいてご尊顔は常に凛々しく身体は髪の毛からつま先まで美しく保たれておられる! ……あなたのような昼行灯に構っている時間など、本来ありえないのです」

 よくお似合いの黒縁眼鏡をクイクイ動かしながら説教を垂れる唐草。

 まぁ言わんとすることはわかるし、概ね同意なんだけど……うーん、私と真綿の関係は、理屈じゃなくて感情で成り立っているんだよなぁ。

 それを理解してもらうのがめちゃ大変ってのはわかるし……どうしようかなぁ。

「だから湊さん……代わりに私が「話は聞かせてもらったわ!」

 どう返そうか逡巡して何も言えない私に唐草が何かを言いかけたとき、スライドドアが大きく開いた。

「真綿様!」

「灯里、待たせてごめんね」

「んーん、お疲れ様」

 後ろ手にドアを閉めた後こちらへとズンズン近づいてきたのは、ちょうどさっきから話題に上がっていた真綿。

「それと唐草さん」

 一言私に侘びた真綿は、腕を組んで唐草に対面した。

「いつも私の応援やサポートをしてくれてありがとう」

「いえ、真綿様は私の憧れです。お力添えできるならどんなことだろうと「でも」

 私を糾弾していた時の勢いは消沈しクールに応対する唐草の言葉を、今度は真綿がピシャリと遮った。

「私と灯里の間に介入しようとしないで。私達は愛し合っていて、付き合っている恋人同士なの」

「んなっ!!!!!!」

 えっそれ言っちゃって大丈夫なの?

 と、私が焦るよりも早く、膝から崩れ落ちた唐草。

 まぁこいつなら変に茶化したり言いふらしたりはしないだろうけど……。

「そんな……真綿様が……湊さんと……」

 いやだいぶダメージ受けてる~。仕方ないわな、憧れの人が、自分が昼行灯呼ばわりした人間と付き合ってるなんて知ったら誰だってこうなるだろうよ。

「そんな……そんなことって……」

「ショックだったかしら。でもこれは紛れもない真実よ」

 真綿は手を差し伸べようともせず腕を組んだまま、追い打ちを掛けるように頭上から言葉を降り注ぐ。

「お弁当を作るのも一緒に帰るのも放課後イチャコラするのも、全部私が好きでやってるの。もうこれ以上ごちゃごちゃ言わないで」

 言い過ぎでは……? 特に放課後イチャコラとか絶対言う必要なかっただろ。

綿じゃ……勝ち目なんて……」

「そうね、私を慕ってくれているのは嬉しいけれどそういうことだから…………え? 私が相手じゃ?」

 せっかく今まで格好良く決めていたのに、最後の最後で素っ頓狂な声を上げて停止した真綿。

 私としても聞こえてきた言葉の意味がよくわからなかったので、もう一度雲を眺めながらどちらかが口を開くまで待つことにした。

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