第5話・寝たフリゲーム(後)
さて、時間も勿体ないしさっさと始めるか。
「真綿、起きて」
にやけ面のまま仰向けで寝たフリをしている真綿の耳元へ口を近づけ……羞恥心を押し殺して囁く。
「……キス、したくない?」
「!!!!!!!!!!」
ビクンと反応した体や赤く染まっていく頬から、効果は覿面だとわかった。
「ねぇ起きてよ。無視するの? 意地悪なんだね、真綿」
一言浴びせては、額や頬、首筋に軽く、
こっちだって太ももに散々されてるんだ、これくらいの意趣返しは許される。はず。
「唇にする初めてのキスは……見つめ合ったあとにしたいなぁ」
「!!!」
めっちゃ頷いてるしめっちゃ唇尖らせてるしちょっと泣いてるし……もうこれ失格なのでは……?
いや、勝つなら徹底的に勝ちたい。
「そっかそっか。じゃあキスはまたいつかに持ち越しだね」
「~~~~!」
今度は露骨に歯ぎしりしよって……。
しかしこんな状態になっても負けを認めない(=甘言に惑わされない)ということは、真綿はちゃんと先を見据えているということ。
つまり、『最終的に自分が勝てばなんでも命令できる』という強すぎるご褒美に支えられている状態。
別に私だって真綿が本気で望むならなんだってしてあげたいけど……いやいやダメだ、私達の関係性が階段飛ばしで進んでしまう。それに体を許して……飽きられたら? 想像したくないけどなくはない。大丈夫、慎重な自分を肯定しろ。
「じゃあ次は……これ」
彼女が『何をされても問題ない。何を見られても構わない』というスタンスで来るなら、『何かをしたい、何かを見たい』という欲求に変えてやればいい。
「ッ!!!」
真綿の右手を動かして私の胸に押し当てた。この前の慌て様からして効果は抜群だろう。
これで少しでも揉んできたら起きたっていう判断に……ってうわ、めちゃめちゃ力入れて硬直させた……。
すごい、揉むか揉まぬか逡巡してるのがよくわかる。流石にこれは可哀想だしやめてやるか。
「ぅ……うぅ……」
どう見ても咽び泣いている真綿さん。指摘したところで『寝言だけど?』とか言って誤魔化しそうだし次の作戦に移ろう。
「はぁーなんか暑くなっちゃったし……脱いじゃおっかなぁ」
ベッドから降りて我ながらクサい芝居を打つ。
「あーあ。真綿の部屋でこんな格好するの……恥ずかしいな」
わざとらしいくらいに服と服を擦る音を(もちろん脱がずに)立てていれば――
「あ」
「はっ!」
――微かに瞼を上げてこちらを視認せんとする真綿とばっちり目があった。
「脱いでないじゃん!! 騙したの!?」
「いやそういうゲームじゃん。とにかくこれで勝負はドローってことで「と"ほ"し"て"こ"ん"な"こ"と"す"る"の"ぉ"ぉ"ぉ"お"お"お"お"お"!!!!!」
ギャン泣きて……。つーか提案者はお前……。
真綿は後ろを向いていた私に抱きつくと、責めるように泣きじゃくり始める。
背中のシャツ越しに涙の温度が伝わってきて、流石にバツが悪い。
「ご、ごめんて真綿、ちょっとムキになっちゃった。そんなに泣かないでよ」
「おっぱい!」
「へ?」
「おっぱい揉むのぉおおぉおおおお!」
「は、はいはい。これでいい?」
勝手にしてくれと言いたいところだったが、真綿の両手を胸に運んで触らせる……マジで何してんだこれ……。
「お洋服が邪魔なのぉぉおおおお!」
くっこいつ……ここぞとばかりに……。
「これが最大限の譲歩だから! 次はないから!」
シャツの下から中へと両手を忍び込ませると、水を得た魚のように……ブラの内側で蠢く真綿の細い、十本の指。
「……その……変なところ触ったら絶交だから……」
「変なところ……? うふっ……ふふふ……わかったわかった」
なんかこれ……結局私が罰ゲーム受けてない……??
流石に私が本気で起こるラインは把握しているらしく、あくまで真綿は胸を揉むという行為だけに専念している。
「えへへ……あのね、灯里ちゃんがムキなってくれたのは……嬉しい……好き……」
「こんな状況で好きとか言われても説得力ないんだけど……」
これ……良くないよなぁ。私ちょろすぎる……。このままじゃあれよあれよと……。
でもさ、考えてみれば今私が体感してんのってギャップ萌えの究極系なんだよね、長年真面目でしっかり者だと思ってた真綿にこんな姿見せられたり本気で甘えられたら……そんなん断れないよ……。
「灯里ちゃん、今可愛いこと考えてるでしょ?」
……そんでこういうところではしっかり優等生的な勘の良さを発揮しやがる……。
「早く終わってくれないかな、って思ってるだけだよ」
「ふーん、灯里のことはなーんでも知ってる自信、あるんだけどなぁ……。じゃあそういうことにしておいてあげるっ」
もしかして私、完全に掌の上……?
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