第3話・膝枕(後)

「満足した?」

「満足、というか……これ以上触ってたら自分を抑えられる自信がない……」

 今まで抑えていたことに驚きだ。あれ以上があるのか……。

「……ねぇ、灯里ちゃん」

 さっきまでもちょいちょいあったけど、真綿はたまに私をちゃん付けで呼ぶ。小学生くらいまではそうだったから、なんだろ、こう呼ぶときは幼児退行でもしてんのかな。

「あの~もし……もしよければその~ブラを~外してとか……」

「それは……恥ずかしいからヤだ」

 結局抑えられてないじゃん。ダダ漏れじゃん。

「だ、だよね~!? それはね! 流石にね! まだだよね! でもあれ?? まだってことは時間が解決させるってこと? つまり明日はOKってこと!? 大丈夫! 私は紳士だから! 嫌がることはしません! ええ、ええ! この目を見てください! 右目に『信』、左目に『頼』、両目には信頼が映っているでしょう!」

 疲れそうなテンションでちょっと不憫になるな。というかそこは淑女じゃないんだ。

「こんなに素晴らしいものを堪能させてもらったのに……私には返せるものがありません。どうかこの身をお好きにしてくださいませ」

 バタンと、ベッドに倒れて大手を広げた真綿。

「昔話みたいなノリで身売りしないでよ。なんもせんて」

「あっはい、さいですか……」

 えへへ、と、照れながらちょっとしょぼくれてる真綿、可愛い。

「どうせ私は軽量級装備ですよ~」

 ほんの少し前じゃ絶対見られなかった、子供みたいな表情。

 幼馴染も恋人もそんな変わらないと思ってたけど……こんな風に真綿の、いろんな新しい表情とか一面を見られるなら……悪くないな。

「えっ? 灯里? なんで笑ってるの? どこがツボだった?」

「んーん。……真綿と恋人になれて良かったなって」

「えぇ!? きゅ、急に何よ! ……もしかして私の触り方そんなに良かった? 揉みの才能ある!? 揉みの達人!?」

 なんだ揉みの達人って。ずっとあわあわしてただけじゃんか。

「灯里と恋人になれて良かったなんて私のセリフよ! 昨日から三兆回以上思ってるわ! というかこのセリフのくだりさっきもあった気が……。あっまさかそんなに私とおそろいにしたいの!? 何買いに行く!?」

「展開が早いよ……。でもいいね、おそろい」

 なんとなくどんなものがいいか考えていると、真綿と目が合った。恋人になってからはまだ一日だけど、幼馴染としては十年以上一緒なんだし思っていることは同じなはず。

「キーホルダーとか」

「下着とか!」

 こいつ……まーだ引っ張られてる……。

「……はい、おそろいは無しということで」

「うそうそうそ! キーホルダー! 私もキーホルダーが良いと思ってた! 買いに行きましょう!」

「はいはい」

 懇願する真綿の頭を撫でると、あっという間に勢いが消沈して従順な犬のように大人しくなって瞳を閉じた。

 私は撫でながらそれに見惚れてしまい、もっと知りたいな、なんて思う。

 真綿がどんな風に照れたり喜んだりするのか、もっと知りたい。

 友達や幼馴染には秘密の、恋人にだけ見せる真綿の表情を、一番近くで眺めていたい。

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