刮目しても活字銀座に星は流れない

銀座の一角に暗黒星雲が漂っている。星明りに飢える者同士の集いだ。毎週定時のオンライン会議に妹の勧めでツヅリが加わった。主催者は悟りを開いた古参だ。「星は無暗にばら撒くと宇宙が眩しくなります。僕も本当に面白いと思った作品だけですよ」

彼は活字銀座のSNS的な馴れ合いに殆ど興味がないらしく、執筆活動に没頭している。そして案の定、評価は低空飛行だ。

「でも書いてて虚しくなりませんか?」

ツヅリが初心者らしい疑問を投げた。マズローの五段階欲求説によると所属欲の次に承認欲求が来る。

別の会員が挙手した。「俺の作品は星が3つです。会員数あたりだいたい十万人に1人は面白いと感じて貰える」

「それって交通事故にあう確率より低いですよね」

ツヅリが泣きそうな顔で言う。アラフォー男性の死亡率と同じだ。

「見方を変えれば全国に千人はいるって事ですよね。ホールが満席だあ」

彼のように出会いと可能性の奇跡に感謝できればいいのにとツヅリは羨む。

「ツヅリさんの作品もきっと誰かが読んでくれますよ」

「銀座の本棚を肥やすんだ。俺たちは作品の多様性に貢献している」

他の参加者も次々と賛同する。

無限の未来に可能性を託すなんて稚魚の放流じゃあるまいし。ツヅリは現世利益が欲しかった。書いてすぐ「いいね!」が貰えるSNSのような気軽さを。

「あたしはそんな博愛主義者になれません。たった1個でいい。目に見える評価が欲しいんです。明日へ一歩踏み出すために」

主催者が反論した。

「ツヅリさん。僕はね。死後に評価されても構わないと思う。いや、星がゼロでもいい。それはそれで誰にも解されない僕だけの文学があるって事さ…」

耐え切れず姉はパソコンを閉じた。そしてブワッと泣き出す。

「あいつらってさ…テニスの壁打ちと同じだよね」

代美が優しくフォローする。姉には内緒で低評価者の末路を調べてみたのだ。殆どは筆を折るか、もっとマイナーなサイトに流れていた。人も評価システムすらない僻地。そこで文字通り壁打ちと称して黙々と書き続ける人がいる。


地上に星座が見えるほど賢者になれない。

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