OVERTURE:
「…などと不条理な発言をしており」
蒲生が祝辞と進捗を述べている間、綾は閃光に囲まれていた。
「鶯将軍、今後の方針は?」
スーツでなく亜人らしい緩やかな衣が妖艶だ。
「様子見といったとこね。太陽系と言う蚊帳で悪霊がどう振る舞うのか」
群がる眼球どもを常套句で軽くいなす。
「無垢は異星人の知略兵器だという識者の見解については?」
骸骨のタブロイド記者がからかうように銀色の歯を打ち鳴らす。
「大衆は陰謀論が好きね」
苦笑しつつ科学的に否定する。
「集合無意識は精神的負荷をあの様な形で排泄するのです。恐れや不安は宗教と言う鎮痛剤を求める」
「つまり無垢は具体的な――崇拝を欲する総意の発露であると。 宗教は阿片と言いますが?」
舌鋒が繰り出されるも綾は動じない。
「処理能力は我々のクラウドが上です。無垢の容量はたがだか1ギガ幽子ボルト。なんとなれば好きな色にいつでも染められる」
蒲生がわざとらしい亜人的な挙動で歩み寄る。閃光が満開する。
「鵲は元気?」
厭味ったらしく尋ねると、蒲生が水晶玉を差し出す。
魚眼レンズの世界に荒んだ女がのたうつ。
「もっと生きのいい被験者が控えてる」、と蒲生がきっぱり。
「絶対不可侵な知性の保護区などありはしない。『衒学』というのはな、知ったかぶりと言う意味だ」
「そういう事です。皆さん」
すました表情をカメラに向ける綾。
「しかし、現に衒学は国連公認の保護区では?」
食い下がる記者に彼女は釘を刺す。
「周回遅れの『民生用』技術と言う意味ならば、ね」
そこへ着飾った鶉が寄り添った。
「家族三人で記念撮影。ハイ、チーズ」
記者が音頭を取る。そして、囲み取材だ。
「世の為にどのような抱負を?」
難しい質問を蒲生が代弁する。
「衒学の副編集長すら見分けがつかなかった。鶉を鉄人だと信じていた。完璧に騙しおおせた。マイクロブラックホール創世術の集大成だ。見事な物だよ」
そういうと三人とも雲散霧消した。そして壇上に燐光が凝縮する。
「国の為に尽くし、人々を護るために働きます。人々の恐れや不安は内面の弱さ。愚かさから生じるものです。世界を一つの正しさで束ねる日まで、一生懸命闘います」
鶉が一礼すると、彼女の分身がずらりと行列した。その背後に重厚な戦車や翼下に爆弾を満載した戦闘機が並んだ。
無垢白書 水原麻以 @maimizuhara
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