LAST STEP
「はぁ?バカなの?」
鵲は即座に否定した。何処にも逃げ場がない。太陽系は霊界通信が網羅している。
そして衒学を辞するより副編集長として蒲生を補佐する道を選べば安泰だ。人類支配なぞ知った事か。蒲生は無垢に基地を築いて世界を威圧するだろう。
迷信戦争は半ばで閉じる。集合愚を知り尽くした叡智の園が新秩序を統べるのだ。それがソクラテス計画。
「阿呆は貴女よ!多様性を廃した世界は潰しが効かない。想定外に弱いのよ」
「大は小を兼ねると言うわ。科学万能が臨機応変に対処する」
「貴女、蒲生に粛清されるわよ?下克上を知らないの?」
鶉は無垢の成分表を壁に映した。
「質量の超過分は重水素。しめて1ギガトン。丸ごと水爆だわ。だから蒲生は出発を阻んだの。星を悪用…」
「でも、それなら星の軌道が違ってくるわよ。重い星は動きが鈍るもの」
ケプラーの法則を用いて運動から質量を逆算できる。天文学者の眼は誤魔化せない。
「識ってるわよね?あたしの知性は水素を用いた電子的クラウド。無垢と同じ原理。智慧ある者は魔道を使える」
「無垢が知性体だというの?」
「衒学の副編ってどこまで愚鈍なのかしら」
鶉はため息をついた。
「魔道で観測結果を捻じ曲げる様な相手に貴女に何ができるの?」
「地下のソクラテス2号を奪って衒学ごと自爆する。それで非公開の基礎技術が失われる。再発明には何十年もかかるわ」
鶉がドレスを脱ぎ捨ててビキニ姿になる。腹に銀河が透けて見える。
『随分と御熱心ね』
構内放送が口論を圧した。鶯だ。
『区画ごと封鎖したわ。鵲、悪い様にはしない。蒲生は貴女に禅譲するって。鶉、いい娘ね。お産が嫌なら他の子に…』
拡声器が爆散した。鶉が眼光を放ってカメラを全滅させた。通風孔からドローンが乱入する。
『鵲、この子を止めて。人質にされたいの?』
「あたしにどうしろと?」
”僕が止める”
ビキニショーツに男の顔が透ける。鵲は顔を顰めたが、即答した。
「鶉、逃げましょ」
土壇場で飴を陳列する組織なぞ信用できるものか。浮気男もだが、悪質性が違う。
副編集長の権限は既に剥奪済みだったが、鶉が力づくで突破していく。
デジタル数字が乱舞して暗号鍵が瞬殺された。
ソクラテス2号の慟哭が格納庫に響いてる。鶯の長冗舌もだ。
『鶉は世界を滅する子よ!戦争はなぜ起きると思う?多様性のせいよ。正義の乱立が争いを産むの』
「三文SFのラスボスは陳腐な理想論で主人公を釣るわ!」
鵲がタラップを駆け上がり、2号の砲門を開いた。機銃掃射が拡声器ごと隔壁をなし崩す。
『おかえり、鵲』
射撃統制装置が温かく迎えた。
通信機が唸る。『このまま逃げられると思って? 鶉はいずれ世界を…』
鶯がしつこい。
「なら、どうしてこの子を創ったの?」
鵲はかねてよりの疑問を口にした。
『僕たちを逃がすためだ。そうだよね? ありがとう、綾』
えっ、とあっけにとられる鵲。「僕」はメインエンジンに点火した。
鶯は綾だ。そして衒学は無垢より愚かだ。大丈夫、きっとうまくやれる。
僕は無垢を足場に世界を敵に回す。鵲と鶉のために。
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