第二十七話 いと小さく見ゆるは、いとをかし

「おはよう!つきなちゃんも早いね?」

「おっはー、ってか皆早くね?やば〜」


8時半過ぎに学校に着いた俺と杠葉つきなだが、もう既に校門前には2人の女子が待っていた。


百谷さんと篠崎まお。


なんて言って良いのだろう、めちゃくちゃ可愛い。それ以外の言葉が出てこない。ポンコツすぎる俺の語彙力くん。


そんなポンコツな語彙力くんに頑張ってもらって、2人の姿を目に焼き付けて行こ…ッ!?


チラッと篠崎まおの方を見たら、目が焼き切れそうな程眩しさを感じたので思わず目を逸らし、百谷さんの方に視線を向ける。


こっちも中々に破壊力高めだが、同じ動画を語り合える大切な人員(?)でもあるので、意地で耐える。


百谷さんは、かなり攻めたコーデに見えた。ってか攻めてね?これ。


でも、露出はかなり多めだけど、いやらしくない。なんだろう、完成されたギャルを感じる。


肩周りはオフショルでウエストにスリットが入った焦茶色のボディースーツに、薄いカーキのショートパンツをハイウエストで穿いており、足元はレースソックスに革のシューズ。


目元を強調して、その他の色味を抑えるいわば引き算メイクと言われるやつだと思う。


目がいつもより大きく見えるのはカラコンとかも勿論あるんだろうけど、この引き算メイクってのがかなり効いてるのだろう。


これは戦闘力3倍どころじゃねぇだろ!?

53万くらいあるんじゃねぇのか!?

スカウター狂ってクラッシュしちまうだろがい!?


ここまでで解析にかかった時間は約1秒。


そして、怖くて見れなかったんだけど、百谷さんの力を借り、篠崎まおの方を見る。


そこには清純を形にした美少女が存在していた。


最初からご尊顔を拝んでしまった瞬間、俺は粒子になって消えていきそうなので、まずは足元から…。


足元は白のスニーカーですね、はい。スカートは膝下まであるデニム生地のタイトスカート。トップスは白Tに、スタイルの良さを際立たせるベージュのビスチェ。


この時点でもう昇天し掛けている。やべぇ。今日持ちません、サヨナラ。


そして。


「おはよ?」

「オ、オハヨー」

「ヤバ!ちょっと流石に動揺しすぎじゃんウケる」

「なんやなんや、もうショートしとんのかい!」


ブルベ…夏…。


浴衣の時も勿論破壊力高過ぎてヤバかったのだが、周り暗かったし?頭パンパンになりすぎてろくに顔見れなかったし?体感2分だったし??


篠崎まおさんの透明感はそこから来てたんでしょうね。えぇ。メイクしなくても美はそこにあったんでしょうね。でも、今回、俺はですね、スカウター持って来てますんで。見えます。


バッチリメイクもされてます。


自然に目力を出すくすみのあるカラーで瞼に艶を出し、上瞼にだけ、軽く明るいラメ入りのアイシャドウ。


ふっくらした頬には軽く光に煌めくハイライト。肌綺麗すぎるだろ…。


プルプルの唇にもしっかりリップが。この感じは少し控えめのマット感があるリップ。これが大人っぽさも演出していて、可愛いのに綺麗、という奇跡を両立している。


あ、ダメだ。スカウターとかそんな次元じゃないわ。


「もうダメだこの人、まぁ一応動きはするし、荷物持ちだけでもしてもらおうぜ」

「マジで!ウケる!ちょっと待って笑い止まらん」

「え、なんでこうなってるの?」


なんか3人が言ってるけどよく分からん。もう思考はとうの昔に捨て去った。



気付いたら俺たちはもうホームセンターに到着していて、なんなら俺の両肩には二つずつくらい買い物袋が掛かっていた。え、いつのまにかですかね。


「これいいじゃん!」

「あ、確かに〜!」

「えい!」


呆けていた俺は突然後ろから何かを被せられた。突然過ぎて体勢を崩しそうになるが、意地で耐え、立ち直ると目の前には鏡。


「Foo!?」


口が裂けて、目が空洞になっている黒髪ボサボサのお化けが突然目の前に現れて思わず変な声が漏れてしまった。


「プッ」

「ちょっと、悪いって〜!」


どうやらお化けの仮面を被せられたらしい。やっべぇ、マジでビビった。


本当に不意を突かれたわけだが、これは油断してた俺が悪い。ってかこれは文化祭で使えるわ。


だって怖かったもん、やけにリアルだし。


「と、突然はやめろよ!」

「あはは!ごめんごめん!」

「それ暗闇とかで出てこられると本当に怖いかも」

「確かに」


楽しそうな3人を見て俺も満足。このままお面を被ったまま歩くわけにもいかないので、脱ごうとしたその時。


「でねー、赤坂先輩がわたがし奢ってくれたの!」

「え、めっちゃ良いじゃん!」

「青春ってヤツだネ〜」


なんか聞き覚えのある声が前方から聞こえて来た。その瞬間、本能で仮面を脱ごうとした手を止めて被り直す。


この声もしかして、八重桜さんじゃないですかぁ…!?


「ん?どしたん?被り直して」

「おー?まだやるんか?いいぞやれやれ!!」


百谷さんと杠葉つきなに怪しまれながらも俺はなんとか誤魔化すために必死に裏声を出す!!


「オ、オマエラ⤴︎ノロッテヤル⤵︎、ノロッテヤル⤵︎カラナァ⤴︎」


おどろおどろしい動きで2人の視線をこっちへ釘付けに…!やれ、やれもっとだ俺…!


「ヤバいってマジやばいウケる、腹捩れそう!動画撮ろ動画」


携帯を取り出して俺を動画に収め始める百谷さん。後でどうにかして消させねば…!しかし、この状況を切り抜けるには続けるしかねぇんだよォ!


こちらに訝しげな視線を送りながらも通り過ぎて行く八重桜さん御一行。


よし、そのまま通り過ぎろ…!いけ、いけぇぇぇ!!


百谷さんはノリノリで動画撮ってるし、杠葉つきなはガハハと笑っている。篠崎まおは引いてる気がするがしょうがない、後少しの辛抱だろ俺ェ…!


「ハァハァ…」


そして俺は完璧に乗り切り、仮面を脱いだ。これ本当に生きてる心地しなかったし、なんなら幽霊の気持ちが分かりかけて来たくらいの悟りが開けそうだった。


「マジでウケるね!後で動画送ったげる〜」

「え!アタシも欲しいぞ」

「おっけー!まおもいる?」

「じゃ、じゃあ私も貰っとこうかな?」


や、やめてくれ…。こんな黒歴史を広めないでくれ…。


にしても、なんとか乗り切れて良かった。もう体力ないって本当。


「じゃあ今日買った材料を教室に置いて帰ろっか〜!」

「あいさ!」

「うん!それじゃいこっか」

「お、おん…」


完璧に燃え尽きていた俺は、学校で解散した後、速攻で家に帰り速攻でシャワーを浴びて速攻寝た…。

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