第二十六話 まいて、雁などの列ねたるが

そして来たる土曜日…。


7時に起きた俺は、カーテンを開け放ち、外の日差しを浴びつつ深呼吸をする。


昨日のうちに買っていたバナナと牛乳を腹に入れ、準備体操第一を行う。なんかで聞いた話だが、準備体操第一と第二を続けて行うと、1日の運動量になるとかならないとか。


結局買い出しのメンバーはあれから1人増えて、結局4人で行くことになった。


もう1人の参加メンバーは、この前転校して来た杠葉さんである。と、いうのも。


教室で買い出しの話をしていると、どこからか話を聞いていた杠葉さんが「なんや!買い出し行くんか!アタシも連れてけー!ついでに町とか案内してくれたらマジで助かる…!」と言って、それなら…ということで参加メンバーに追加されたのだ。


案内ついでに買い物もすれば一石二鳥、と。


メンバーの追加に関しては、百谷さんも篠崎さんも笑顔で了承した。もちろん俺も断る理由はないので了承。だって元々4人だったし、水蓮寺に比べれば願ってもないメンバーだし。


というかさ。普段はマジでダラダラしてる朝にこう、さ。もろに朝日浴びたりとか、バナナと牛乳を朝食にしたりさ、準備運動とかしてるのはさ。気付いてるからなのよ。


「なんでこうなった…」


そう、4人中男子俺だけ。なんでこうなったんだ本当に。なんか成り行きでこうなってしまったのは分かる。色々とありすぎて、考えが及んでなくてこの状況になるまで放置してしまってたのは俺なのだ。Oh…。


普通だったらさ、最高じゃん?だって、一般的にハーレムみたいなもんでしょ?ラノベの主人公とかなら分かるけどさ。


絶対正常な思考なんて保てないって。いいかい?ハーレムってのはみんな主人公くんのことが好きな場合だと思うんよ、分からんけど。


俺の場合は空気になることに徹するしかないわけ。ん…?空気になれば万事解決か、よし、落ち着いて来たぞ。


ピンポーン


と、その時突然にチャイムが鳴った。


ちょっと待って、何も荷物頼んでないよな?そしてまだ8時だぞ?宗教勧誘か?これは居留守一択だろ。


ピンポーン


そして2回目のチャイム。


おん…?しつけーぞコイツ…。でもまだ2回目だし一応は許容範囲か。よし、物音を立てずに息を潜めて…。


ピンポーン


マジかよ…3回目??ありえん…、ちょっちドアスコープから覗いてみるか?息を殺して摺り足でドアに近付く…。そして覗いてみ、


「おはよー?おーい、まだ寝てんのかよー?」

「!?」

「お、ドア前にいる?アタシだよ、杠葉」


ドアスコープの前にいたのは杠葉さん。なんで!?家教えてないんだけど!?


WOW!イッツ!スケアリーサプラーイズ!しかも驚いて物音を立ててしまったので、もう誤魔化しは効かない!!


さっきまでの落ち着きはもうない。一気に恐慌状態に陥る俺。そして更に一周回って頭の回転が急速に加速していく。変な方向に。


取り敢えず、危ない人間ではない…とは思うのでドアを開ける。


ドアの前にいたのはやっぱり杠葉さん本人で間違いなさそうだ。


腕を組んで立っている杠葉さんは、ボーイッシュなファッションで身を包んでいた。


ベージュのワイドパンツに黒のTシャツをウエストイン、有名スポーツメーカーのロゴが入ったキャップを被っており、サイドポニーを横から覗かせている。靴はキャップと同じ有名スポーツメーカーのロゴが入った白基調のスニーカーを履いている。


そして、胸の前には肩掛けのバッグ。サッパリしてるコーデだが、キチンと女の子らしさも出ていて、活発なイメージの彼女にめちゃめちゃ合ってる。


化粧気をあまり感じないくらいのナチュナルメイクなのに、顔の良さが分かるのは素が良いからだろう。


というか。


「ど、どうして家知ってるんだよ!?」

「別のクラスのこの辺に住んでるやつに聞いた」

「ふぁ!?」

「ガハハ、アタシの情報網舐めんなー?」


まさかの別のクラスの奴に聞いただと…!?驚きを隠せん…。うちの中学から同じ高校に来たやつは数人。確かに、子供の頃は地域の活動でお互いの家を把握してる奴はいるけど…。


「あ、勘違いすんなよ?実はアタシも同じ校区なんだよ。そいで、仲良くなった奴が近所に住んでる同級生の話をしてくれて聞いたんだわ」

「ほ、ほぉん…」

「どうせ近いんなら一緒に行きゃよくねー?と思って朝来たわけさ」


にしても、家の場所話したの誰や!マジで!

突然杠葉さんが訪問して来て心臓飛び出るかと思ったぞ、マジで!


それは取り敢えず置いとくか。

今考えても埒が明かねぇ…。


いやしかし、杠葉さん…行動力の塊やんけ。そして転校して来てからまだ日も浅いのに、もう他のクラスの人間とも交流あんのかよ。ガチの陽キャですやん…。


「見た感じ、もう用意出来てるみたいやし、行こうや!」

「お、おう…」


朝からテンションがめちゃくちゃ高い杠葉さんに着いていく形で俺は自転車に乗った。


ちなみに杠葉さんの自転車は、クロスバイクだが、赤を基調としたカラーリングで、八重桜さんのあの青いクロスバイクとはまた違ったカッコ良さがある。赤って強いイメージあるよね。


八重桜さんも文化祭準備で忙しいんやろなぁ、と、ふと思う。タピオカ飲んだことないから楽しみだし。


さてこっちも準備頑張って、八重桜さんを楽しませないとな。気合い入れて脅かし役でもやるかね。


「なぁ、いまあの子のこと考えてたやろ?」

「!?」

「アンタ驚きすぎやって」


そう考えていると、いつの間にか横に来ていた杠葉さん。この前もだけど、なんか切り口が鋭くね…?


「ほんと見てて飽きねーな、アンタ」

「う、うるせーし」

「ま、あの子も頑張ってるやろし、うちらも張り切って準備しよーや」

「お、おう」

「あと、アンタこの前から敬語取れて話しやすくなってる。良いことやなー」


そんな杠葉さんはガハハと笑うとまた前を走り始めた。


そういや確かに敬語使ってないかもしれん…。良いことなのかは分からんけど、でも少し自分的には気持ちが楽になってる気はした。

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