第ニ十五話 飛び急ぐさへ、あはれなり

帰りがけに八重桜さんと遭遇し、文化祭の話になったので自分のクラスは廃墟をモチーフにしたお化け屋敷をすることを伝えると、八重桜さんは思った通り、平然としていた。


「ふ、ふーーーん、ぱいせんのクラスはお化け屋敷をするんですね??」

「おん、なんか廃墟をモチーフにするみたいで、結構力入れるみたい。八重桜さんももし良かったら遊びに来て欲しいな」

「も、もちろんです。遊びに行きます」


平然としてるのか…?なんか少し挙動がおかしいような気もするが気のせいだろう。


「で、では!さよならです!」

「お、おん」


急ぎ足で去っていく八重桜さん。なんか少し動揺してたよな…?もしかして怖いのが苦手だったりするのか?


いや、なんか用事でも思い出したんだろう。分からんけど。


そういえば、土日はどうするんだろうか。どっちにするかすら聞いてないしなぁ…。と思ってたら、ピロン、と携帯に通知。


「ん?、百谷さんからだ」


そう、百谷さんから。内容は「今、校舎から体育館に向かう渡り廊下で日程について話してるから来てほしい」との事。「まおも居るよ」と追加で来ている。


ここからなら歩いて2、3分。まぁ、篠崎まおもいるなら行くか…、とぼちぼち歩いていると、ピロンピロンピロン、と更に連投。ってか百谷さん打つの早すぎ…さすがギャル…?


メッセージの内容は、


「水蓮寺もいるんだけど、こっちに来たらまず水蓮寺に話しかけて欲しい」

「曜日的には土曜になりそうだからそれの確認とか」

「今度雨穴さんの『あの日、彼らは何をした』の感想話そ」


こんな感じ。中々に長文だし、この速度の連投…やっぱフリック入力神技だな。


ってか水蓮寺もいんのかYO!?しかも水蓮寺に話しかけろだって!?マジで言ってんのか百谷さん…。Oh,My God!


ただ、同じ趣味の動画の話が出来る人がいるのはマジで強い…。


そうこうする内に現場に到着。

そこには確かに篠崎さんと百谷さんと水蓮寺の3人がいた。


「集合場所は?持ち物は?用意する予算はどれくらいにしようか?」


なんか勢いづいて女子2人に畳み掛けてるように見える水蓮寺。ってか篠崎さんも百谷さんも心なしか引いてるような気がする。


うわぁ…、この状況で水蓮寺に話しかけんの?いくら百谷さんの頼みとはいえ…。


とかちょっと躊躇してたら篠崎さんと目があった。


なんか泣きそうになってね…?気のせい…?

目が潤んでるような気がするんだけど…?


俺の中のなけなしの庇護欲が凄い掻き立てられてゆく…。あぁ俺よ。やるのか?いまここで…!


「ちょ、丁度良かった。水蓮寺さ、土曜来るんだよね?」

「ん…?キミは?」


言っちゃったー!

話しかけちゃった!キャー!

水蓮寺くんに見られちゃったワー!


もうテンションなんてぶち上げていかないと身が持たない。素で行ったら今頃井戸に頭突っ込んでる(?)。


「い、一応同じクラスなんだけど…」

「そうなんだ、把握してなかったよ。で?土曜日がなんだって?」


む、ムキー!癪に障りすぎる!

まぁでも、覚えてないのは想定内、モウマンタイ。

今この場で大事なのは水蓮寺の興味が篠崎さんと百谷さん達から逸れていること!

オーケーオーケー、焦らず行こう。


「もしかして、キミも来るなんて、言わないよね?」


やっぱりシバくかコイツーッ!


…?

キミも来るなんて言わないよね?


もしかして?え、百谷さん?

これ水蓮寺に俺が来ること言ってない?

んー?なんだ、よく分かんなくなってきた。


百谷さんをチラッと横目で見ると、両手を合わせて「ごめんごめん」のジェスチャーをこっちに向けて来た。マジ?


「え…、お、俺も行くけど…?」

「キミが来るなら俺は良いや、一緒にいる所を見られたら俺の評判が落ちるかもしれないし。残念だけどね。まお、また遊ぼう。じゃあね」


忌々しそうに、そしてゴミを見るような目で俺を見下して、篠崎さんに次のお誘いを残して去っていった水蓮寺。なんなんアイツ。


はぁ…。なんだアイツ本当にヤバいだろ…。もう本当に関わりたくねぇ。


「はぁ…」


普通にため息をついてしまった。


「あの、」

「ん?」


声の方を見ると、俯いてた篠崎さんが顔を上げてこちらに向き直った。


「ほんっとうにありがとね…助かったよ…!」


少し潤んだ瞳、赤らんだ頬。篠崎さんは満面の笑みを作ってそのままペコリ。


うっ…。思わず天に召されそうになる俺。


「い、いいよ別に!こちらこそ!ありがとう!」


美少女の満面スマイルをありがとう!その意味を込めてこっちもお礼で返す。頑張った甲斐があったんだよ俺。意外とやれば出来るやつなのかもしれない。


「ま、また借り作っちゃったな…」


小さな声で何か呟いてる篠崎さん。


「水蓮寺ヤバすぎて計画早めちゃったけど、これはこれで良かったんじゃん?流石ウチ!」


そしてその篠崎さんの後ろで百谷さんもなんか呟いてたけど、聞こえんかったし、今はどうでも良い。


「でもみりあ、後で奢りだよ?」

「ん、まじごめんだし!奢らせていただきます、お嬢様!」

「っ、もう!」


だって目の前にニコニコの篠崎さんがいるのだから。


「じゃ、改めて!土曜日の朝9時!校門前集合ね!」

「いえーい!おくれんなよー?」

「お、おう」


元気なった篠崎さんと百谷さんと予定の確認をして解散。


文化祭までもう少し。

今年は楽しむか。


八重桜さんとこのタピオカ屋も気になるし。

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