第十五話 先輩なんてぱいせんで充分です。

最近の夏は前より暑いです。水分キチンと摂らないと熱中症とかになりかねません。それでも山の上なので少しは涼しいですが。


「こはる〜!おまたせ〜!」

「ん!待ってないよー」


私の方に走ってくるのは同級生の西島ふうか。身長が結構高くて、170cm近くあるから、女子バスケとかで活躍してたりもします。ちなみに私の高校での初めての友達です。


久しぶりにこの街に帰ってきた私に、優しく接してくれて凄く助かりました。席も隣でしたし、仲良くなるのに時間はいりませんでした。


身体つきはスレンダーなんだけど、脚とか腕とかはしっかり筋肉が付いててスポーツ少女って感じです。顔は結構キリッとしてて美人系なので女子人気もあるのだとか。


「んじゃいこっか!」

「うん、いこ!」


今日私たちが向かうのは県の中心部。県庁所在地がある所です。


私たちが住んでるこの街は県の中心部から少し離れた山の中の盆地にあります。栄え具合を言うと田舎です。結構過疎が進んで、若者とかはやっぱり山を下って中心部の方へ行く人が多いです。景色は凄い良いのですが、娯楽が無いのが問題なのかも知れません。


さて、県の中心部…、長いのでこの先は市内って言いますね。


市内に抜けるにはバスか電車があります。自転車では行けません。行ける人は行けると思いますけど、片道30km。行きは下りですが、帰りは山を登らないと帰れません。往復で60kmです。


そう考えるとちょっと離れてますね。


「ホシバの新作早く飲みたいね〜」

「あれ美味しそうだよね!ぶどうの!」

「こはるはぶどうか〜、わたしはちんすこうとか飲んでみたい」

「それも気になるー」


市内までは電車で約1時間。料金は680円です。片道1時間かかるので気持ちは県外に行く感じです。


そこから目的のホシバに向かうわけですが、駅近くにはないので、そこから更にバスに乗り換えて県内で一番の商業施設に向かいます。大体駅からバスで30分くらい。ちょっと遠いです。


「ね〜こはるはさ〜、好きな人とかいるの?」

「わ、私??」


外の景色を見ながら、ふうかの話を半分聞きながしていた私に軽いジャブが来ました。


突然好きな人の話をし始めるなんて。いままで私たちのクラスの担任と国語の先生が出来てるんじゃないか、っていう話はしてたけど、まさか私たちの話になるとは。


「ま、まぁいるよ!」

「お、いいね〜、青春だね」


ごまかしてもすぐバレそうなのでここは否定せずに答えます。


「そういうふうかは?」

「わたしもいるよ〜!2年の先輩なんだけどね、私が視聴覚室探してた時に一緒に探してくれたんだ〜」


そういうとにこ〜っと笑うふうか。にしても視聴覚室を一緒に探してもらっただけで、好きになってしまうとはチョロい子です、そこもかわいいけれど。


にしても先輩。先輩かぁ。


ちなみに私の好きな人も先輩です。ふうかには恥ずかしくてまだ言えないけど。


多分向こうは、ぱいせんは覚えてないかも知れないけど、私が引っ越す前の小さい頃、川で溺れそうになってた私を、ずぶ濡れになりながら、誰よりも早く駆け付けてくれて助けてくれた人です。


助けてもらった後、年齢を聞いた時に驚いたのを覚えてます。


だってわたしのひとつ上だったんです。たったひとつ上の男の子が私を、ひとつ下の女の子を体を張って助けてくれたんです。


この人は私のヒーローなんだ、そう思いました。好きになる理由が少し単純かも知れませんが。


そう思っていたので、何人かに告白はされましたが全部お断りしてました。


そうして、こっちに戻ってきて高校に入学してからです。運命的な出会いをしてしまいました。


駐輪場で偶然見かけたあの日、「あ、この人は」って思いました。

あの頃と顔つきがあまり変わってないです。


あの時はつい恥ずかしくなってぱいせんなんて変な呼び方しちゃいましたが、なんだか今では私の中ではぱいせんでしっくりきてます。


先輩じゃなんだかむず痒いような気がして。


自転車の後ろの泥除けにテプラで貼ってある苗字も、助けてもらった時に聞いた苗字と同じ。


覚えてなくたっていいんです。だってほんとに偶然会えたんですから。


「助けてくれる先輩っていいよね」

「だよね〜、カッコよい!」


ふうかの理由はともあれ、共感出来る話ではあったので頷きます。


「はぁ〜、どうにか赤坂先輩に会えないかなぁ」

「ん…?赤坂先輩…?」


なんか聞いたとこあるような名前ですね…。


「ん?こはる、もしかしてこはるも赤坂先輩なん!?渡さんよ〜!?」

「違う、違うからね!」


今日は良い天気。たまにはこうやって電車に揺られて市内に降りるのも良いかもしれません。


「そういえば、もうちょっとで城まつりじゃん、赤坂先輩誘えないかな〜?」

「城まつり…!」

「ん、どうしたの?」

「城まつり、あったね!そかそか!!」

「こはるも好きな人誘ってみる?いいじゃん!」


そういえば、ありました、城まつり。小さい頃に家族と一緒に行った記憶があります。確か、初日に花火大会があったはず…!


「ん、花火見るか〜!浴衣準備しないと〜」


ウキウキなふうかを横目に、私もちょっと頑張ろうと思いました。


「ふぅ…」


先輩…。やっぱりしっくりきません。

先輩なんて、自信無くて鈍感な先輩なんてぱいせんで充分です。もっと自信持っても良いと思います、うん。


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