夏はまだ続きますよ、ぱいせん。

第十四話 昨日の話と後日談

八重桜こはると篠崎まおのダブルブッキング(?)をギリギリ免れた翌日。俺は燃え尽きたようにベットに寝転がっていた。


まだ夏休みの半ば。賢い奴はそろそろ宿題を始める頃だが、俺は賢くないので最終日前日一夜漬けコースを予定している。


『楽しかったです。』


か…。八重桜こはるからの連絡はそれから無い。篠崎まおからの連絡も無い。昨日色々と詰め込みすぎて嵐が去ったあとみたいな気分になってる。


と、その時。ピロン、と通知音が鳴った。


「!?」


咄嗟に確認すると、ハートが回復したよ!の文字。なんやねん。もう最近やってないし、このアプリ消そうかな。


時刻は朝の10時。そういえばまだ朝ごはん食べてないな。ってか起きたの9時だしなぁ。


「そろそろ飯でも食べるか」


と冷蔵庫を確認。…。なにもあらへんやないかい!


そういえば昨日大判焼きだけ買って帰ってそのまま風呂入って寝たんだった。せめてもの、カップ麺くらい買って帰れば良かったんだけど、完璧に忘れてました。


しゃーなし、朝の空気でも吸いに行くついでにピオまで行くか。


パジャマからささっと普段着に着替えて、外に出る。空には入道雲。いい天気でございますな。


もう暫くイベントも起きないだろうし、あとはのんびり夏休みを消化していこう。


のんびり漕いでる内にピオに到着。いつも通りフードコートの横から入ろうとしたら、視界に一枚のチラシが目に入った。


「城まつりか、ほんと夏って感じやなぁ」


そう城まつり。お盆の間に開催されるこの街の伝統的なお祭りで、盆踊りとか出店とか沢山でるのが数日続く結構大きい祭りだ。


その祭り初日の夜にはなんと、花火大会もある。


「花火大会ねぇ」


まぁ、花火なんて家からでも見れるし、会場なんて行っても地元のクラスメートがわんさかいるだろうからここ数年は少なくとも行ってない。


浴衣姿の篠崎まお…。絶対可愛いじゃんやばいよ。祭りには絶対浴衣でくるタイプの人間だから、祭りに行けば一目拝めるのは拝めるだろう。けど、その代償が厳しい。それだけのために出る価値はあるのだろうけど、どうしても尻込みしてしまう。


でも八重桜こはるの浴衣も絶対に負けてない。ってか可愛さのベクトルが違うのもそうだけど、あの感じでちょっと派手目なおしゃれ浴衣とか着てたらギャップ萌えで多分俺は発狂してしまう。


想像しただけでニヤケが止まらん。あかん。自重せなあかん。


「え、きも」

「!?」

「なににやけてたん、こわ」


と妄想に耽っていた俺に突然の声掛け。顔ニヤけてたのか俺。ってか本当に突然だし、辛辣だし、なんか声に棘がある気がする。誰?え、誰?


振り返るとそこには篠崎まおの友達の人がいた。

そう、実はDIYが好き(?)な人である。名前はいまだに覚えてない。


というか突然やし、辛辣すぎん?苦手だわ、何この人。


「え、いや、あの、」

「あーーー、ごめ、そんな怖がんなくていーよ!ちょっと強く言いすぎた、ごめ」

「え、あ、はい」


と思ったら直ぐ謝ってきた。意外と良い人なのかもしれない。っていうか、声掛けてくれたってことは俺嫌われてなかったりする?この人もしかして俺のこと好きなんかな?


「城まつりやっぱり来んのー?」

「あ、今のところは予定ないです」

「そうなんだー、おけ。ってか敬語ウケる、ウチらタメだし要らんよー!」

「あ、はい」


なんか城まつりのこと聞かれたし。これもしかしてこの流れで誘われるやつ?アオハルきた?


「んじゃーねー!」


でも誘われたとしても、ふたりで行ったら篠崎まおとか八重桜こはるとかと会うかもしれないし、その2人に変な誤解とか生むかもしれないし、他のクラスメートとかに噂とかされるかもしれないし、でも浴衣姿の女子と一回くらいは歩いてみたいし…!名前はまだ覚えてないけど…!


「あ、あの!一緒に!!!」


悩んだ結果、誘おうと思ったらもうその女子は俺の前にはおらず、代わりにちっちゃなおばちゃんがいました。


「あたし?ごめんねぇ、お父さんがおるけぇの」

「あ、はい」


そして俺はその場で真っ白になった。


結局その後10分くらい立ち尽くした後、意識を取り戻した俺は惣菜の唐揚げ弁当とカップ麺を買って帰りました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る